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指切りの代わりにキス・3
娘小説の後日談です。
食卓で頬杖をつくアッテンボロー。
「女性提督も廃業だな。ざまあみろ。軍部と政府の上層部。・・・・・・むなしいな。」
とぶつくさ言っていると目の前にいい香りのリゾットが運ばれてきた。
「パルミジャーノチーズでつくった。
ちょっとしつこいかな。あまり無理して詰め込まなくて
いいから。それと野菜ジュース。飲めよ。それは。」
「・・・・・・ほんとお前って器用だね。オリビエ。おいしそう。ありがとう。」
いえいえ。と男も食卓に着く。
「お前のその笑顔のためなら何でもするな。おれ。シェーンコップでも殺しちゃうだろうな。」
それは普段からの欲望ではないのだろうか。
「じゃいただきまーす。」
ポプランは目の前で食事を取っている恋人がかわいいなと思いいとしいなと思う。
泣いた顔も普段と違う趣があって美しいと思うが、微笑んでいるときはこちらも安心する。
もとからユニセックスな恋人だし彼にすればアッテンボローが男でも女でも実は今は
どっちでもいい。出会ったころはポプラン自身女にしか興味がなかったから女にこだわった
けれど昨日と今日。彼女が男になったところで実は困らないポプランである。
無造作な前髪が切れ長の眸にかかる様。
白いきめ細やかな肌にかわいらしいそばかす。
一見硬い印象の唇は触れるとやわらかくて。
指の長い白い手は華奢で少し骨ばっているがきれい。
少し長い首は綺麗な鎖骨につながり・・・・・・。ここでポプラン一時ストップ。
「ハニー。随分ラフなシャツの着方だな。」
あんぐりと大きな口をあけてスプーンを口に運ぶあどけない仕草もかわいいのだが。
「だってさ。おっぱいないからべつにいいんじゃないの。多少見えたところで。」
そういう問題かなとポプランは考える。
「でもだらしがないか。ちゃんと着てたほうがいいよな。・・・・・・行儀が悪いかも。」
いやいやいや。
ちょっとしばらく観察する。・・・・・・目の保養になるな。ポプランは思った。
ただし他の人間には絶対見せたくない姿だ。
絶対見せない。見せてなるものか。
リゾットを平らげて野菜ジュースを飲む仕草や満足そうな笑顔。
男女を越えた「美」でしかない。
あー美味しかった。と伸びをするアッテンボロー。
「ごちそうさま。オリビエ。ありがとうね。・・・・・・あれ。」
さっきまで目の前にいた恋人がいない。
・・・・・・背後にいる。
「飯はうまかったようだな。ハニー。満足してもらえて光栄だ。」
首筋にキスをされて耳元に甘いささやき。
「・・・・・・ちょっと待て。2時間ほど私は眠ったんだよな。というと2時間前まで・・・・・・
だっただろ。だからね。休憩が必要だと思わないか。お前のことは誰よりも愛してる。
でも食後すぐにそういう気持ちになれない・・・・・・。」
唇を重ねられて黙るしかないアッテンボロー。やさしく執拗な接吻。
無造作に着ているだけのシャツの肌蹴たところからポプランの手が侵入してくる。
「・・・・・・・ん・・・ぅ・・・・・・・・。」
言葉にならぬ声で抗ってみるも遅いようで。
背後から抱きしめられて指で敏感な部分をいじめられる。
「・・・・・・・そういう気持ちになっただろ・・・・・・。ダスティ。」
きらめく緑の眸に見つめられてアッテンボローは頷く代わりにポプランの
顔を引き寄せキスをした。そして彼の耳元でささやく。
「でもここじゃいや・・・・・・。ちゃんとベッドでしよ・・・・・・。」
了解とポプランは唇を重ねる。惜しむように唇を離すと横に回ってアッテンボローを
いともたやすく抱き上げた。・・・・・・ねえ。
「・・・・・・キスして。」アッテンボローがねだる。またも撃ち落されるのはおれなんだなと
ポプランは抱き上げたまま接吻する。唾液の混ざる音が室内に響く。
そのままリビングを突っ切り寝室のベッドにアッテンボローを横たわらせる。
「・・・・・・何がお前を誘惑したんだ。」
アッテンボローが覆いかぶさる男に尋ねる。
「お前の存在そのもの。」
また唇を合わせてポプランはアッテンボローを抱きしめる。
「おれはとうとう狂っちまったらしい。」
淡い金褐色の髪をした恋人が言うので
「・・・・・・私もきっと脳が溶けてるんだ。またきっと気を失うんだろうな・・・・・・。」
それでもいいさとポプラン。
アッテンボローの顔にキスの雨を降らして。指は自然とジーンズの中に滑り込む。
緑の眸が優しく微笑む。
「・・・・・・やられた。おれも下着を着けるのはやめにしようかな。すごく挑発的だ。」
あ。
「それには事情があるんだよ。オリビエ。べつにこれを予測してたわけじゃない。」
いいんだ。とポプラン。
「どんどんおれを誘ってくれ。ダスティ。わくわくする。」
「そういうわけで私は朝からへまをしたもんだから見舞いに花でも贈ろうと思うんだけれど
どういう花がいいかわからない。その点大尉はアッテンボローと親しいし彼女が好きな花を
見繕って見舞いとして贈ってくれないかな。」
うちの幕僚会議はいつも騒々しい。今日もそうだった。それでも話し合いにはなったし
アッテンボローのことを悪く取る人間もいなかった。それは予想内だ。みんなが驚くことも
想定内。
さぞ驚かれたであろうと思われるのはメルカッツ提督と副官殿だ。自由惑星同盟では性転換すら
施術なしに自由に行われると思われては困る。勿論そんな馬鹿なことはつゆにも思わないで
あろうけれど。
ムライなどは医師がなんと言っているのか女性にもどる見込みがあるのかと聞いてきたけれど
今の段階ではこたえられない。誰もわかりはしないのだから。フィッシャーにせよメルカッツ提督にせよ
分艦隊をみてくれるというのでありがたかった。アッテンボローが復帰するまでの間だけだが。
シェーンコップや薔薇の騎士連隊の連中は別の意味で役に立ってくれそうな気はする。
アッテンボローに火の粉が降りかからぬ手伝いをするといっていた。
ラオも彼女の異変が「性転換」だけであるという現在協力的で下士官で文句を言う人間に厳重注意を
すると約束してくれともかく。幕僚会議は終わった。
けれど私は朝彼女をひどく傷つけたし大尉にことを話すと
「閣下。」とはじめて叱られた。
といってもいつもの口調より厳しくなっただけなんだが。
だから花を贈ろうと考えた。酒より見舞いには花がいいだろう。
「では切花で探します。お食事はされているのでしょうか。アッテンボロー提督は。」
大尉は小首をかしげて心配そうな面持ちで私に尋ねた。
「ポプランはなかなかうまい紅茶を入れる男だからきっとうちのユリアンのようにあれこれ
世話を焼いてくれてると思うよ。・・・・・・少佐のおかげで随分今回は助けられた。
あいつの減給処分は取りやめよう。」
ええ。と大尉はいつものように微笑んでくれた。ちょっと安心だ。
ジェシカは怒り出すとしばらく本当に恐いんだが大尉は少し違うみたいだ。
比較しちゃいけないけれど。
「私も少佐ご立派だと思います。恋人の性別が変わったからと人が変わってしまうなんて
恋じゃないと思うんです。」
同感だ。
大尉は今急ぎの書類がないから30分で見舞いの花を用意するが外出してもよいかと
いった。30分でことがすむのは
さすが大尉だな。
「アッテンボロー提督は本当は白い薔薇がお好きなんですがそれは少佐の特権ということで
別の花にしますわね。」
「白い薔薇はポプラン以外はだめなのかい。」
「お二人が交際を始めたころ毎日のように白い薔薇を提督の執務室に贈ったのは
ポプラン少佐です。お二人の思いでの花ですから。カーネーションならすぐ見つけられます。」
それでは母の日じゃないかな。
「そうおっしゃると思いました。でもカーネーションの花言葉は「あらゆる試練に耐えた誠実」
っていうんですよ。カードに書いてもらいますわ。」
そうか。
さすが大尉だな。
さっきから私は大尉に感心ばかりしている。
でもそれだけ我が副官殿は優秀なのだ。メルカッツ提督も過日あれほど才覚のある副官は
なかなかみたことがないと誉めていた・・・・・・。
・・・・・・。
そうだ。ちょっとアッテンボローの部屋に電話を入れておこう。今は1500時を過ぎたころ。
食事はしただろうか。ポプランなら食べさせただろうな。いろいろと騒動は起こしてくれるが
アッテンボローにはいい男のようだ。2人が付き合えば彼女が苦労するとばかり思っていたが
尽くしているのはポプランのほうだ。あらゆる試練に耐えた誠実・・・・・・うん。
さすが大尉。
悪くないな・・・・・・。
あ。また副官自慢が始まった。誰も聞いていないからいいだろう。
・・・・・・私の勘は割とよく当たる。念のため音声だけの電話にしておこう。
念のためだ。
もしあれがあれなら
それはそれで
アッテンボローが元気ということだ。
恋人同士の部屋に電話するんだから細心の注意は必要だろう。
「もしもし。ヤンだけれど。少佐今朝はまかせっきりで悪かったね。そうかリゾットを食べたか。
いや起こさなくていいよ。いろいろと疲れてるんだろう。こっちは丸く収まった。といっても
実際は彼女が出勤してみないとわからないことも多い。フィッシャーとメルカッツ提督が
分艦隊をしばらくは見てくれる。ラオは書類関係でサインが必要なものがあればお前さんに
渡すといってる。」
「おれの提督は人徳があるんですね。それとも人気者なのかな。で結局今日は何か検査結果
でましたか。」電話口のポプランは普通のトーンで会話している。
まだ何もでてない。それを言うと
「こればかりは司令官閣下に文句を言っても始まらないからしばらく様子見します。」
ふむ。すまないね。
「とにかく朝のことはくれぐれも悪かったと彼女に伝えておいてくれ。起きてからでいいから。
では彼女をよろしく。それとね。お前さんの減給は不問にする。未払い分を払っておく。
でも今後ユリアンにはいかがわしいものを見せないでくれよ。では。」
気を使って損をした。
あれがあれで
これがこ
れではなく
アッテンボローは
夕べの睡眠を取り戻している・・・・・・か。それも大いに結構。
なんてヤンは思っていたりするのであるがやっぱりあれはあれでこれはそれで。
「・・・・・・お前って途中でもぜんぜん声が普通に出せるんだな。すごい。オリビエ。」
シーツに包まった裸のアッテンボローの太もものうちに音を立てて唇をつけるポプラン。
「・・・・・・まったくうちの司令官は野暮だぜ。・・・・・・愛してる。ダスティ・・・・・・。」
覆いかぶさったポプランの体を受けとめて彼にくちづけをするアッテンボロー。
「・・・・・・・だいすき。」
ほほを赤く染めて上目遣いの恋人。
「気が遠くなるほど好き・・・・・・。つぎは「き」だぞ。ダスティ。」
本当。おれはこの女が好きで好きでたまらない。艶やかな唇を指でなぞる。
「しりとり・・・・・・じゃあね。」
ポプランの指を自分のくちの中に含んで。アッテンボローは言う。
「・・・・・・気が狂うほどすき・・・・・・。」
指を引っこ抜いてアッテンボローの唇にキス。
きっと気が狂うほど好きなのは自分だろうと撃墜王殿は何度も
キスを重ねながら考えていた。
あ、あまいわー。