指切りの代わりにキス・4


娘小説の後日談です。







また空白の時間がある。現在1650時。寝てしまったのか気を失ったのかアッテンボローは

天井を見つめ手を額に当てた。・・・・・・一週間の休みの間体はもつだろうか。別の意味で。

「・・・・・・オリビエ・・・・・・。」

声をかけてみたけれど隣にいないし部屋にもいない。寝返りを打って一度ベッドサイドテーブル

をみると冷えたミネラルウォーターのペットボトルとメモ一枚。

「ハニーへ。夕飯を何か買ってくる。帰ってきたら一緒にフロでえちーしよーなハートマーク・・・・・・

体がもたないよ。・・・・・・いてて。」

散文的かつ能天気なメモを見て痛む腰を押さえて。自分はベッドのシーツの中で裸ではなく

ちゃんとガウンを身につけている。着せてくれたんだろうなとそこはポプランに感心。

ベッドにからだを起こしてぼーっとする頭をすっきりさせるためにせっかくだから水を飲もうと

ペットボトルを取った。冷たい。こういうところも気が利く。あいつは偉い。

・・・・・・一人でシャワー浴びちゃおうかな。

でもその間に浴室に入ってこられたら終わりだしなと。

男になって・・・・・・体だけ男になってまだ一日あまりが過ぎただけだが一回のセックスで

かなり消耗をする。女の体とぜんぜん違うみたいで回復に時間がかかる。



ポプランとシェーンコップは何がそんなに有り余っているんだか。

それより一週間も休む羽目になるとは。これではいけないと気分転換に何かをしたいと思う。

といってぼーっとする。珈琲でもつくろう。アッテンボローはスリッパを履いてそろそろとベッドを降りた。

今朝鏡を見なかったから大変な大恥をかいたわけだ。姿見があるので全身をうつす。

「・・・・・・え。」

アッテンボローは周りに本当にポプランがいないかを確かめてそっとガウンの中の体を見た。



一方でポプランは口笛を吹きながらいつもの恋人の部屋へ帰る。今夜はオムライス。

特大のものをつくるつもり。ドアを開け鍵を閉めて。もう口笛はやめておこう。アッテンボローは

さっきも気を失ってそのまま眠ってしまった。男の体は女よりもえちーで消耗するからなと

彼は知っている。だからポプランは日々体力を鍛えている。などと不謹慎に考えて冷蔵庫に

卵を入れる。寝室で物音がするからアッテンボローが目を覚ましたんだろう。

風呂でお楽しみといきたいけれどあまり彼女を疲れさせるのは本意ではない。



1700時前。夕飯の準備でもしようかとポプランが思案していると・・・・・・。

「司令部に挨拶に行くぞ。オリビエお前もこい。着替えろ。私の警護と副官なんだろ。」

オリビエ・ポプランは卵をよく取り落とさなかった。目の前には軍用ベレーをかぶり

ジャケットを着てスカーフを首に巻きアイボリーのスラックスに軍靴のアッテンボローが

たっている。



しかも出るところはでて引っ込むところは引っ込んだ制服からでもわかる美しい肢体をした

「女性提督」の姿をしている。

「もしかして元に戻ったとかそんなのありか。」ポプランはテーブルに卵を置いて。

よくわかんないけどとアッテンボロー。

「起きたら女だった。・・・・・・あれもなくなってたし。」少し小さくなったアッテンボロー。肩の線も

腰や手の大きさもやっぱり女性のそれだとポプランは認識した。

「・・・・・・ダスティ。」

女性提督の腰に腕を回してポプランは彼女を抱きしめる。

顔をよく見るとやはり切れ長の眸は青く輝き艶のある唇の形も女そのものだった。








えちーだな。記念えちー。

「じゃない。司令部に行くんだってば。」

そんなつまらん用事は明日でいいだろうとポプランは文句をたれるがアッテンボローは言う。

「ここは裏部屋。男同士のそういうのは書いてもいいけど男と女のそういうのはここでは

だめなんだ。」








なんなんだ。その
わけのわからない

不条理なルールは!!


しぶしぶ。じゃあ着替えるけどとポプラン。記念のキス。



「・・・・・・男のお前も相当魅力的だった。おれはきっとお前がどっちでも惚れてる。

それもかなりヤバイクライ惚れてる・・・・・・。また恋に落ちた気分だ。」

やさしく甘いキスをかわして。



やっぱり記念えちーがしたいという男の尻を引っぱたいてアッテンボローは急いで軍服を

ポプランに着せた。



司令官閣下の執務室ではヤン・ウェンリーがびっくりしてうっかり椅子から転げ落ちた。

「閣下。」フレデリカ・グリーンヒル大尉が怪我はないかと腕を貸してヤンを起こした。

「つまりアッテンボローお前女なんだね。明日になったら男に戻るとかはないよね。」

そこまでは彼女とてわからない。



「わかりません・・・・・・。昼寝から起きたら女に戻っていたってだけで。」

人間界で施術なしの性別が定まらぬ状態を「半陰陽」というけれど彼女はそれではないと

病院でも診断されている。

「もしかしたら明日は男かもしれないですね。」

などとアッテンボローはにっこりと微笑んでいった。・・・・・・順応したようである。

なんにせよ今日のところはよかったねとヤンはいい、ありがとうございますと

アッテンボローは言った。

「明日から現場復帰していいでしょう。司令官閣下。」ワーカホリックな彼女は元気に言う。

「だめだよ。」ヤンは即座に言った。

「えー。それはないですよ。私は元気じゃないですか。」

女性提督はご不満。グリーンヒル大尉はポプラン少佐と顔を見合わせて小さく笑う。

「だめったらだめだよ。まだ検査結果がでていない。それがでない限りお前休養しなさい。

休暇じゃないんだから。休養。ポプラン少佐。アッテンボロー少将の警護と副官任務引き続き

たのむ。目を離さないでくれよ。」

そんなあ。とアッテンボロー。任務遂行いたしますとポプラン少佐は綺麗な敬礼をした。



「性転換だけでなくほかの体のことも心配だからね。入院させるよりはましだろ。

おとなしく言うことを聞きなさい。」

ヤンはやれやれと頭をかいた。







絶対職場復帰ができると思ったのになーとアッテンボローは部屋で髪を乾かしながら言った。

「おれはそうはならないと思ったな。」

ポプランは上半身裸でアッテンボローの髪を乾かす手伝いをしている。

・・・・・・きれいな筋肉だから見ないようにする女性提督。

彼女は男物のシャツに素足。

「ヤン・ウェンリーが言うように明日はまた男ってこともあるし肝心の体の仕組みがわからんうちは

現場にだせんだろう。あれが妥当な判断だ。」

唇を尖らせほほを膨らませるアッテンボロー。・・・・・・明日はまた男になっているのかな。

でも・・・・・・。

恋人さえ。

ポプランさえ何も変わらないまま自分のことを好きでいてくれたら今度は男になっても

動転しない気がする。

「またおれを誘ってるな。ハニー。おればっかり見て。」

赤面彼女。ちがうちがう。誘ってない。

おれの妄想かな。どうも最近お前にあおられて誘われているように思えて仕方がない。と

ポプランは言う。

「それはそっちの妄想だよ。別に私は誘ってなんかいない。でも・・・・・・。」

でも?



「やっぱりお前がだいすき。」



宇宙の色を思わせる瞳の色も上気した頬も白い肌のかわいいそばかすも。

無防備な笑顔もしなやかな体もシャツからのぞくたわわな胸も。

シャツからでてる細い指も怪しいほど綺麗な脚も。



「やっぱりえちーしよー。」

「さ、さっきお風呂でしたじゃないか。今日何回したと思ってるんだ。」

まだ4回。

早速ソファに押し倒されたアッテンボロー。「4回ってさ、男にはありえない数字だろ。

お前ももう26歳だしえちーばかりしてると脳みそが溶けるぞ・・・・・・えっと多分。」

アッテンボローの唇にポプランの唇が重なる。お互いがお互いをむさぼりあい

そしていとしく思い重ねるキス。唇が解放されてひとつアッテンボローは呼吸をした。

すかさずポプランはクイズを出した。

「23178034+1は?」

「23178035だろっ。私は馬鹿じゃないんだ。何度も同じ手に乗らない・・・・・・。」

な。ダスティ。

「脳みそとけてないだろ。えちーしても。」ポプランはアッテンボローに覆いかぶさったまま

耳もとでささやく。



・・・・・・。私が誘ったことになるのかな・・・・・・。

リビングのローテーブルにはヤン・ウェンリーから・・・・・・こんな気のきいた真似はできないだろうし

フレデリカから黄色に赤い縁取りのスプレーカーネーションの花束が贈られてきた。カードには

「あらゆる試練に耐えた誠実」とあった。



はじめはかわいい女たらしだと思って飲み仲間程度にしか思わなかったポプランを、彼女は

いつからか居心地のよさと何か通じるものがあって急速に惹かれた。けれど彼女はためらい一度は

ポプランの告白を拒絶した。彼に愛されても長く続かぬ一夜の恋になることがたまらなく

かなしくてさみしくて素直にその手を取れないまま。そのうち妙な風聞が流れていつの間にか

アッテンボローの視線の先にはこの緑の眸の男がいた。

息がかかるほどの距離にポプランはいる。

「あらゆる試練に耐えた誠実」・・・・・・。



「して・・・・・・・。オリビエ。抱いて・・・・・・。」

アッテンボローはポプランの鍛えられた腕や胸を指でなぞった。

「・・・・・・愛してる。ダスティ。いろいろあるけど2人で超えていこうぜ。おれはいつでも

お前の側にいるからお前は心配しないで前を向いて歩け。いつでもおれがちゃんと見てるから。

・・・・・・おれを信じろ。」

うん。約束する。とアッテンボローは小指を出したけれど・・・・・・。

ポプランの首に回した腕の力を込めて自分に近づけさせ彼の唇にキスをした。

「上級者はキスで約束するんだったよな。」

やや頬を赤らめてアッテンボローはポプランを抱き寄せた。

そう。

もっと上級者になるとベッドで約束を交わすんだぜ。と撃墜王殿は彼女の唇にくちづけて

あとは・・・・・・。



明日の朝アッテンボローは女なのかそれとも。

どうもそんなことはお二人には関係ないご様子。また彼女が男になったところでポプランの愛情は

変わらないしアッテンボローも動じない。



「あらゆる試練に耐えた誠実」。

さすが大尉。彼女はいつでも先見の明がある。



fin


  



おわたー。またいつか男になる日があると思われます。何となく面白かったんで。