「娘小説」の番外編です。
ルームサービスの電話をヤンが入れるのを耳にしながら。
いっこうに顔を上げないでベッドに座っている黒いミリタリーコートを羽織っている自分の恋人を
ポプランは見つめていた。
体が少し大きくなっているのはなぜだろう。
そこから彼の猜疑心や嫉妬心は急速になくなっていく。冷静沈着なパイロットの頭脳に切り替わる。
顔は上げなくても自分の恋人であるのは間違いない。けれど肩の張り具合や握り締めたこぶしの
骨の出方。ぜんぜんいつもの恋人のそれではない。よくよく彼が見れば全く異常事態で信じることも
できないが彼の恋人は・・・・・・あれは男の体。
ポプランはヤンに言う。
「すいません。もう一回ルームサービスでウィスキーはボトルに変更してもらえますか。」
「いいよ。私も相伴していいかな。」
「もちろん。しらふでこの事態を乗り切る気持ちにもなれないし。俺の提督にはコーヒーじゃ
なくてブランデーにしてください。顔が真っ白です。それと何か食べさせないと。まったく世の中って
のはわからんことだらけだな・・・・・・。」
ヤンはこうなるだろうとどこかで思っていた。オリビエ・ポプランはただの色事師ではない。
注文をし終えたヤンはもうすでにアッテンボローの隣に腰を下ろして彼、彼女いや恋人の
肩を抱きさすっているポプランにいった。
「アッテンボローから聞いたのは薬物や飲食物の影響じゃなさそうなんだ。今日の午後
昼食後手洗いで自分の体の変調に気づいてこのホテルの部屋を取ったと。性別が男性に
なったこと以外は動揺している。今のところ他の変調はないようだ。この部屋を取った事情は
男に変わった姿をお前さんに見られたくなかったからで。偽名を使ったのはダスティ・アッテンボロー
は知名人だし女だとみんな知っている。私が呼び出されたのは昔からのなじみだから。
ここで一時間くらい2人で相談していた。ともかくお前さんを呼ぼうと思ってさっき電話を
入れたってこと。こんなところだけれど。」
「どさくさにまぎれて俺の提督にキスしたりしてないですか。」
とポプランは冗談で言った。
「頭を撫でただけだよ。人の恋人に手を出す気はないし考えてごらん。そもそも手を出すくらいなら
みすみすお前さんにかわいい後輩を任せたりしないよ。」
ほんのジョークですとポプランは言った。
「おい。大丈夫か・・・・・・。えらく鼻をかんだな。皮がめくれて美人が台無しだ。」
そう恋人に言われても声を出すことがためらわれる。声まで男になったのだから。
チャイムが鳴ってヤンがルームサービスを受け取った。
紅茶とウィスキーのボトル一本。ブランデー一杯。サンドイッチ。
「ゆっくり飲むんだぞ。いつもの状態じゃないし。何なら口移しで飲ませたほうがいいかな。」
ポプランはあっさり男女の壁を越えてしまった。
ヤン・ウェンリーもびっくりである。
どこかで想像していたことも否めない。
でもまだアッテンボローはうつむいたまま。声も出せないでいる。かろうじてブランデーを
自分で受け取り一口含む。
「かわいそうに。衝撃が大きいだろうな。俺と同じものがついてりゃ泣きたくもなる。
世を儚んで自殺なんてしなかっただけえらいな。声も出ないショック状態か・・・・・・。」
それは違うんだよと紅茶を飲みつつヤンは言う。
「アッテンボローは声も男の声なんだ。だからお前さんに聞かれたくないんだろう。
さっきまでわんわんないてたよ。」
「男か女かぐらい見ればわかるでしょ。声だって男になるに決まってる。そうか
男の体になったら俺がお前を嫌いになると思ったな。このお。かわいいやつ。」
ポプランはアッテンボローの頭を優しく撫でる。
一時間、無駄な論議を交わしたんだなとヤンは紅茶を飲んだので。
「あのね。ポプラン。彼女はそういう具合だから一通りの検査をさせたい。性転換だって
驚きだが深刻なのはほかに影響がないかってことだ。私はこれでもわずかながら軍と政府に
顔が利く。彼女を実験対象にはさせない。彼女の体が心配だし心のほうも心配だ。すごく
傷ついていると思う。わかるよね。少佐。」
わかりますよとポプラン。
「ヤン・ウェンリー大将は権力の力でアッテンボロー少将の尊厳を守ってくださる。だから
医者に診せるってことですね。」
うん。いやな言われ方だけれど仕方がないとヤンは思う。
「ひとつ提案ですが。」
「どうぞ。」
「おれもアッテンボロー提督と2人きりになりたいんですよ。ヤン提督は一時間彼女と
話をしたでしょ。俺も2人きりになりたいです。あとで連絡を入れますしいったん帰ってくれますか。」
想定内だなとヤンは思っていた。
「そうだね。2人きりの時間も必要だろう。私は家にいる。いずれにせよまだこの話はこのメンツしか
知らない。自宅にキャゼルヌを呼んで打ち合わせをする。何かあれば私の家に電話してくれ。
何かあればすぐにだよ。ポプラン。」
「キャゼルヌ少将にはくれぐれも今回の原因は俺じゃないことは言っておいてくださいね。」
「後ろめたいことがあるのかな。少佐。」
「山ほどあります。閣下。」
聞くんじゃなかったとヤンは思う。
「じゃあ私は失礼するよ。・・・・・・アッテンボロー、どうしてもポプランがいやなら私の家においで。
歓迎しているからね。なにかあったら言うんだよ。」
そういい残してヤン・ウェンリー退場。
2人きりになったポプランはアッテンボローの顔を両手で包み込む。額に自分の額を当てて。
「熱はないな。」
見つめてもアッテンボローは長いまつげを伏せて目線を合わせてくれない。
「無理はないか。こんなこといっても慰めにならないが俺はお前が好きだ。
女でない事実はお前にとっては衝撃でしかないし傷になっている。お前がかわいそうで
たまらない。抱きしめていいか。」
そのポプランの言葉にアッテンボローは言った。
「・・・・・・だめ。・・・・・・かわいそうだからって好きって言わないでくれよ。」
相当傷ついてるな。言葉に過敏に反応する。ポプランはもう一度言う。
「かわいそうなのは事実だ。女でありながら男になっちまう。原因はわからないし
ほかに何があるのかわからない。不安で悲しくて。俺にすべてはわからないが
推測はできる。それとお前を好きなのは今に始まったことじゃなくて出会ったときに
好きになったまま今も続いている。かわいそうだから好きだということじゃない。
抱きしめたいんだけど。」
アッテンボローは視線だけ合わせてくれた。
一歩前進。
「だめ。だって自分がいやだから。この体。」
「その気持ちはわかるけどまだ今のところ解決策はないわけだからあんまり自分のことを
嫌いになるなよ。俺はお前が大好きなんだけど。」
「だって男の尻には興味ないんだろ。」
「普通ならな。でも今は非常時だぜ。ハニー。」
冗談を言っている場合じゃないぞとアッテンボローが言うと冗談のつもりは全くないと
ポプランは言う。
「考えてみろ。もしお前が女のままで俺が突然女になっちまっていたらお前はどう思う。
俺が考えるお前はそれでも変わらず俺を大好きって言ってくれると思うぜ。そこをもっと
考えてみろよ。・・・・・・俺が女になったら気持ち悪くて捨てちゃうの。」
「そんなことするわけないだろ・・・・・・。」
涙がまた出てきそうで言うのがやっと。
「じゃあおれはそんなことをする人間に見えるのか。」
たちまちアッテンボローの目から涙が溢れ止まらなくなった。
ポプランは躊躇もせず彼女を抱きしめた。
「愛してるよ。ダスティ・アッテンボロー。頭がおかしくなるくらい愛してる。
たぶん本当にお前に狂ってる。」
彼の胸で泣きじゃくるアッテンボローをやさしくしっかり抱きしめてポプランは続ける。
「お前が女でも男でもじいさんでもばあさんでもおれはお前を愛してる。
忘れないでくれよ。ハニー・・・・・・キスしよ。」
やだとアッテンボローは言ったけれど頬を流れる涙をポプランは唇でぬぐう。
されるがままじっとしてるとアッテンボローの口角に滑り込んだ涙までポプランは
キスで吸い取る。
しばらくそのままで2人。ポプランはアッテンボローの唇の端にくちづけたまま
「キスいや?」と聞く。・・・・・・いやとも言えない。
「・・・・・・ばか。」
そういったアッテンボローの唇にやわらかく短いキス。そしてゆっくり深いキスをもう一度。
抱きしめられたまま動けなかったアッテンボローがポプランの背中に腕を回す。
いつものように舌が滑り込んで。ついそれに反応するアッテンボロー。でもまだ恐さがある。
彼女の脳裏には今は常に自分が男だと言うことが離れない。
「だ・・・・・めかもしれない。」
キスの合間に吐息とともにアッテンボローは呟いた。
「だめじゃない。」とポプランはアッテンボローの着衣を脱がせていく。
「だって女じゃないもん。」抗おうとしているのに。
彼女は男になったのだからずっと力は強くなっているはずなのに。
彼の手がコートを脱がせ着替えにきていたシャツもボトムまで脱がせてしまうのを止められない。
でもやっぱりだめかもしれないとアッテンボローはポプランの手を押しのけようと
するのだけれど・・・・・・。
やさしい愛撫に負けてしまう。いとしい指がいつもアッテンボローを攻める。
でも彼女は恐かった。やっぱり男同士だからだめだったといわれたら
アッテンボローは立ち直るのに・・・・・・数年はかかるだろう。数年で傷はいえるだろうか。
けれどポプランは指でアッテンボローの肌をいとしみながら、普段と変わりなく
彼女が感じる部分に舌を這わせる。裸の胸もそして・・・・・・。
「ダスティ。」
覆いかぶさったままポプランは自分のものを彼女に握らせる。
「・・・・・・・なんで・・・・・・。」
なぜ固くなってるの。自分は今男の姿をしているのに。
「お前がお前だから。おれにとってはお前がダスティ・アッテンボローであれば
大きな問題はないんだ。まだだめかもしれないというのかな。ハニー。」
アッテンボローはほほを赤く染めて男の眸を見つめる。
「泣いてもいいぞ。今日はお前にとっては災厄の日だもんな。」
「・・・・・・もっとして。」
消え入るような声でアッテンボローは初めてのようのときのようにうつむいた。
違うのはまたもぽろぽろと雨粒のような涙が頬を伝っていること。
「うん。もっとな。もっとする。」
言語明確意味不明ながらもアッテンボローの体のいたるところに唇をあて。
指を這わせて。
えがたく至高のものとしてアッテンボローの肌のぬくもりや体の重みを大事にした。
何度もアッテンボローの名前をささやきつつ敏感な恋人の出す吐息やあえぎ声に
ポプランは欲情する。扇情的になる眸も、アッテンボローのにおいもすべて
いとしい。
「私が男でも感じちゃう・・・・・の。」
きれいな筋肉をなぞるようにふれてアッテンボローもポプランを欲していた。
息苦しく胸が熱い。
「感じる。じゃなければキス一つできない。」
アッテンボローの耳元でかすれた声がして思わず体を震わせる。
口を開きかけると唇が覆いかぶさってくる。
互いの舌を絡ませて。同じ空気を呼吸して。ポプランはアッテンボローのものに手ふれた。
それはじらしていただけ。太ももの内側を散々愛撫してアッテンボローがもっと感じる
ように恋人はじらしていた。ポプランを抱きしめる恋人の指に力がこもった。
「や・・・・・・だ。なんで・・・・・・いっちゃう。や・・・・・・・やだ・・・・・・・。」
こんなに早くアッテンボローが頂点に達することはない。自分が男だからかなと
ふとよぎるけれどこれって出さないで我慢できないのかなと一瞬のうちに考えた。
けれどポプランはためらうことなくアッテンボローのそれを口に含み手をあてがった。
「やだ、だめ・・・・・・・や。」
頭のなかが真っ白になった。
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