キスがその答え・4



「娘小説」の番外編です。







わずかな間アッテンボローは意識が飛んだみたいだった。

目を開けると。



恋人の顔を覗き込んで髪を撫でてくれているポプランがいる。

また頬が熱くなる。

「・・・・・・ごめん。の・・・・・・ませちゃった・・・・・・よね。」

ポプランはやわらかい笑みをこぼして言う。

「お互い様。いつもお世話になってるから。こういう味をしてるんだ。腹が一杯になる味。」

馬鹿なことばかりいってとアッテンボローは緩やかな微笑をみせた。

恋人の愛らしい笑顔を見ると唇にキスを落とす。

そしてポプランはアッテンボローを抱きしめる。男になったとは言えどかなり華奢だなと

思う。シーツにひろがる緩やかな曲線を画く長い髪はなまめかしい。ポプランは通常男性には

興味がない。軍や飛行学校時代そういう誘いもあったがそういう気持ちにはならなかった。



ホテルのこの部屋に来たとき。

恋人が異常事態に見舞われているのを知ってかわいそうと思った。

彼女は本当に女らしい女だから。

そして同時にいとしくなった。生物学上の男にまで自分は恋して欲情もすることが

結局彼は思うに愛情なんだろうなと。



「なあ。お前のはその・・・・・・どうしようか。」

ポプランはアッテンボローの言っている意味がよくわかるのであるがついいじめたくなる。

かわいいから。

「おれの何をどうするって。」

「・・・・・・わかってていってるだろ。」

もういい。ご機嫌斜めのアッテンボローに逆戻り。恋人の腕をぎゅっとおしやって背中を向けた。

軍人用居住区のシングルよりも狭いシングルだからそれほど距離感はない。

ポプランはうしろからアッテンボローを抱きしめて。白いうなじにキスをする。

でも今日はこれでも結構気を使っているポプラン。

いつもならこれ見よがしに恋人の白い肌のあちこちに赤い「しるし」をつける。

けれど。



病院へ連れて行くことになっているからそれはやめておこうと思っているのであった。

ぷぷ。

アッテンボローが肩を震わせて噴出した。

「なんだよ。むくれたり笑ったり。情緒不安定だな。」

だって。

「だって背中にあたるんだもの。お前のが。まだ固いし・・・・・・。」

出してないからなとあっさり言うポプラン。

男同士となるとまだ自分の恋人にはレッスンが必要だ。

うぶなアッテンボローには無理だと思うし小道具もいるだろうなと情事の

天才オリビエ・ポプランは思っている。

「いくらおれのが固くても今日はおあずけ。」

いつもおあずけを食らうのはポプランのはずだがとアッテンボローは振り向いてまた目に

涙をためた。



やっぱり・・・・・・無理だよね。

「男同士、無理だよね。お前を満足させてあげれないなんてごめん・・・・・・。」

そうじゃなくってとポプラン。

「おれがどこにおれのものを入れるのかわかれば心の準備がお前にいるだろ。」

そんなことくらいしってるとアッテンボローは眸を潤ませたまま呟いた。



「つながるのって大事じゃないかな・・・・・・。」



ポプランはアッテンボローのまぶたにキスをして。じっと涙でぬれている恋人の顔を見つめた。

「でもすごく痛いんだぞ。はじめは。」

入れられたことがあるのかとアッテンボローが聞くと別の女にいれたことはあると恋人は言う。

さすが。経験値が違う。

「今日はさ・・・・・・散々心配したり悩んだりびっくりしたり、悲しくなったりしてお前の心も心配だから

わざわざそういう痛いことまでさせたくない。・・・・・・こうやってベッドの中でキスしたり抱き合って

・・・・・・それでも愛は感じない?ハニー。それとも是が非でもつながりたいのか。」

青い眸の彼の恋人の頬や唇にくちづけしつつポプランは尋ねる。

「でもいつもは絶対つながりたがるだろ・・・・・・。男だからつながりたく・・・・・・ないのかなとか。

考えちゃって・・・・・・。」

「ちがーう。ちがーう。確かに体が男だからと言うのはこの場合あるんだけど結構いたいと思う。

慣れるまで。ここがラブホテルだったらおれも考えたんだけどな。ローションもないスキンもない。

シーツを散々汚して血まみれにしてもいいなら、する?」

ポプランの腕の中の恋人は視線をずらさないまま熱心に考えているようだ。まだ頬に残る

涙をペロリ。



「・・・・・・痛くてもいい。だって・・・・・・いつ女に戻れるのかわからないし・・・・・・戻れないかもしれない

・・・・・・・だったら。・・・・・・だめ?」








アッテンボローの唇に熱く長いキス。これが答え。







「・・・・・・多分いたいと思うけどもう俺止められないから。先に謝っとく。痛くしてごめんね。」

止まらないから。

これだけ誘惑されてそんな目で見つめられて止まれる男がいるのだろうか。

舌を絡める長いキスを容赦なく続けて指はアッテンボローの素肌をまさぐり、攻める。

「ん・・・・・・・あ・・・・・・・あっ。」

敏感な肌はほんのりと朱に染まる。ほのかに残るいつものアッテンボローの香りが男を

捕らえてはなさない。

「・・・・・・オリビエ・・・・・・んっ・・・・・・。んっく・・・・・・。」

アッテンボローのあえぎ声が、そして蟲惑的な眸がポプランをほしいと伝えている。

だんだんポプランの指と舌でアッテンボローのものが大きく固くなる。

背中から抱きしめられ、平らかな胸を愛撫されるとふくらみがなくても感じるんだなと快楽で

狂いそうな思考の中で思いがよぎった。

背中をくちづけられて舌が這わされる。

そして恋人の手は高ぶったアッテンボローのものに添えられた。

「やあ・・・・・・あっ・・・・・・う・・・・・・・。」

アッテンボローはポプランの顔を引き寄せて接吻を求める。

やさしいが甘くすべてを溶かすような濃厚なキス。

ポプランの手は激しくアッテンボローをさらに高ぶらせていく。



「やだ、だめまた・・・・・・一人でいっちゃ・・・・・・・。や・・・・・・。」

「・・・・・・一人ではいかせないから・・・・・・。」



アッテンボローの体液をローションの代わりに塗りこんでみる。ないよりはましだろうとは男は思う。

次々とあふれ出てくる透明な体液を塗って指を一本入れてみる。

多分アッテンボローはいたいと思うけれどもうポプランも止まれない。

背中のそり具合が扇情的で声が自分を求めているのがよくわかる。

痛いかと聞かないのはこの場合もう了解済み。

あえぎ声と小さな悲鳴がアッテンボローから漏れている。

指を増やしていき、濡らしていく。

「・・・・・・ダスティ。」と恋人の耳元でささやく。声がかすれる。

アッテンボローの体が魚のように跳ねるのを男は制する。

ゆっくりだが確実にポプランはアッテンボローの中にはいった。

「う・・・・・・く・・・・・・」

アッテンボローはいつの間にかシーツを噛んで大きな声がでないようにこらえていた。

ポプランはアッテンボローの額にキスしながら腰を動かす。

「愛してる。ダスティ。愛してる・・・・・・。」

ここでポプランはまたアッテンボローのものに手をあてがって・・・・・・。

背中や首筋に大粒の汗が浮かんでポプランはそれにそってキスをする。接吻する。

「・・・・・・・オリビエ・・・・・・い、いっちゃう・・・・・・う・・・・・・・。」

彼も限界に来ていた。

「一緒にいこう・・・・・・。ダスティ・・・・・・。」



2人は頂点に達した・・・・・・。







「病院でも結局検査結果待ちだし・・・・・・。ともかくなんだ。少佐。今のアッテンボローは動揺もしているし

おびえてるしなんとも言えん気持ちだろう。でもお前さんはアッテンボローによくしてくれてると思うし正直

ありがたいよ。性別はともかく今の段階ではアッテンボローは健康体であるらしい。とくに薬物治療や

ホルモン剤の投与なんかがあったらどうしようかとも思ったがそうでないらしいし。お前さんにはいろいろと

手間はかけさせられてはいるがおれはアッテンボローに関してだけ少佐を信じてるから大事に扱ってくれよ。」



検査は一通り済ませたがすぐには結果が出ないものもあるし結果がでてるところでは「成人男性として

健康な状態」と示された。キャゼルヌは病院を出てヤンとともに胸をなでおろした。

キャゼルヌはポプランによく説教をたれるけれど今回性別が変わったところで一向に変わりなく彼女を

恋人としていたわる撃墜王殿を見ていると。これもまた胸をなでおろす。



少佐は両刀だったんだなとやや見当違いのことを考えていた。それでもキャゼルヌにしてはデリカシーがあった。

両刀という言葉を使えばアッテンボローが男になったことをからかっているようだなと言う前に気がついた。



「先輩。今日はどうもありがとうございました。」

アッテンボローは痛む腰をこらえつつヤンやキャゼルヌに頭を下げた。腰が痛いのは別の理由である。

ちなみに痛いのは腰だけでもない。

「おれは病院の手回しをしただけだ。」とキャゼルヌは笑う。

「私も書類を書いただけだよ。書式云々でキャゼルヌ少将に知恵を授かって。」とヤン。

ヤンは事実上軍部でクブルスリー統合作戦本部長、ビュコック宇宙艦隊司令長官に次ぐNo.3であるが

当人は権力云々が嫌いだから使い慣れていない。でもかわいい後輩のために今回それなりに

軍部と政府に口出しできぬように仕組んである。



「でも先輩に話ができて気が楽になったのは本当です。キャゼルヌ先輩もびっくりでしょ。私が

こんな声でしかも男になってるなんて。」

ポプランと並んで肩を抱かれている分にはアッテンボローの外観は大きくは変わらないように

キャゼルヌは思えた。

「まあな。だが原因はなんだろうな・・・・・・。それとヤン。さっきのことおれがいうか。お前が言うか。」

「人事はキャゼルヌ少将に任せてますから。先輩がどうぞ。」

ヤンはそういった。アッテンボローはきょとんとしている。ポプランの顔を見たが彼も知らないという。



「つまりな。異例の人事ではあるがポプラン少佐にアッテンボローが生物学上の男性である間。つまり

この現象が解決されない間、アッテンボローの副官兼護衛をしてもらいたい。飛行隊長として忙しいのは

わかってるが空戦隊のほうはコーネフ少佐とコールドウェル少尉とで平時は統率をとってもらうとして

お前さんにはアッテンボローの護衛を第一。戦闘が開始されれば勿論飛行隊長に復帰してもらうんだが

それ以外は・・・・・・そういうことだ。」



わーお。とポプランがいう。

「随分とすごい人事令を出しましたね。少将。大好き。」

大好きというな。気色悪い。とキャゼルヌ。

「つまりな。ただでさえアッテンボローは「女性提督」ってことで目立っている。そのうえ性別まで

変わったと知れれば何が起こるか予測ができん。・・・・・・くだんの事件以上のことが起きたら

困るし。お前さんは馬鹿じゃない。ラオは参謀として優秀だし醜聞のもみ消しはできても機動力を

考えればお前に任せたい気もする。そのかわりおれとの約束は忘れないで何か察知したらこっちに

情報を渡せよ。それからどうするかを決めて司令部からお前に捜査なり行動をとってもらうことにする

・・・・・・。不服か。」

全然。

「ポプラン少佐。全力を挙げて任務遂行いたします。」ときれいな敬礼をアッテンボローの肩を

抱きながらした。

「おれは不服な人事だがやむをえないしな。」とキャゼルヌがいえば。

「もう。少将。お兄様って呼ぼうかな。」とポプラン。

呼ばなくていいって。



じゃあ明日体調がよければ仕事に出てもいいし悪ければ速やかに休むこととアッテンボローに言い残し

ヤンとキャゼルヌはかえろうとした。

その時ヤンがいった。



「そうそう。アッテンボロー。今日ルームサービスのお金を私は置いてこなかった。現金は持ち歩かない

たちで。悪かったなと部屋をでたあとに気がついたんだ。払うから金額を教えてくれないか。」

「そんなのいいですよ。たいした金額じゃないですし。」とアッテンボローはなぜか赤面して辞去する。

「でもね。アッテンボロー。私は一応上官だし、本当なら対話したときのホテル代も私が払わないといけないと

思うんだがね。いくらだい。」

いや、ぜったいだめです・・・・・・とアッテンボローはいおうとすると。

「あとで請求額を送ります。司令官閣下。」とポプランがいう。

うん、そうしておくれとヤンは微笑む。何かアッテンボローがいおうとするが・・・・・・。

「ではおやすみなさーい。」とポプランはアッテンボローの手を握って走り出した。



それをみたヤンとキャゼルヌ。

「・・・・・・ヤン、あいつら何かしたんだぞ。多分ベッドとかシーツの修繕費が来るんだ。

お前さんそれくらい読めんかな。」

「・・・・・・」無言のヤンである。

それでも。

あれだけ心配していた男女のハードルをアッテンボローのためなら飛び越えるポプランの

愛情は貴重だ。

「ま、いいですよ。私は彼女の兄ですから。」

とヤンは自宅に残しているユリアンが気になった。

「ユリアンが心配して待ってるぞ。」キャゼルヌは笑った。



アッテンボローの部屋にて。2330時。

「お前ね。あのベッドとかシーツの汚損の弁償は私がするって言っただろう。先輩に請求なんてしたら

・・・・・・。」

アッテンボローがコートをハンガーにかけているときに後ろからポプランが抱きしめる。

「ジョーク。請求はしない。俺甲斐性がないから折半してね。ハニー。」

まだ減給処分中のポプランである。

「・・・・・・まだ痛い?」と耳たぶをあまがみしながらポプランは聞いた。

こくっと頷くアッテンボロー。

「でも・・・・・・。私がそうしたかったから。いいんだ。」

恋人の顔を引き寄せてキスする。

この男と出会えてよかったとアッテンボローは深く心に思った。



「ひとつだけ小言がある。ハニー。」

「な、なに。なにかな。えちーのことかな。」

壁際に立たされたアッテンボローは丁度ポプランの腕があって逃げられない。ポプランは軽く

不機嫌なご様子。



「いやそのことじゃない。・・・・・・あのさ。おれが信用ならないのはわかるけど一年いっしょにいるだろ。

もっと信じてほしいんだよな。こんな大事なときどうしておれじゃなくてヤン・ウェンリーにすぐ泣きつくの。

おれ、そんなに頼りないかな・・・・・・。まああの人ほど権力はないけどね。心の支えにはおれが一番

じゃないわけかな。それはちょっとつらい。」



あ。そっか・・・・・・。

アッテンボローは自分が男になったらほぼ100%ポプランに捨てられると思っていた。

でもポプランはそんなことはなかった。いつもどおり。自分を甘やかしてくれのびのびと

過ごさせてくれているのは・・・・・・この恋人じゃないかとアッテンボローは反省した。



「ごめん。男だってわかれば嫌われるって思ったし・・・・・・。」

「嫌わないだろ。」

「うん。」

「じゃあ約束。今後は一番に問題が発生したらお前は誰にそのことを言うか。」

「うん。お前に言う。ごめん。オリビエ。約束する。」

じゃあ約束のキスをしようとポプランはいうがはやくアッテンボローの唇にキス。

長いキスのあと、呼吸を整えながらアッテンボローがいう。

「約束って指切りするんじゃなかったっけ。ほら小指出して。」

「いいや。恋人同士はキスでするものだ。」

とポプランはもう一度熱いキスひとつ。



それからもっと上級者となれば・・・・・・。

「恋人同士の約束は上級ともなればベッドでかわされるものだ。」

とひょいとアッテンボローを抱き上げた。「やっぱり大して重くないな。華奢だもんな。お前。」

「またするの・・・・・・かな。」

アッテンボローの弱気な発言を耳にしてポプランはいう。

「別につながらなくてもいいんだ。一緒のベッドで一緒に裸でキスしながら抱き合うのだけで

おれは十分愛を感じるけど・・・・・・。たくさんキスしよう。おれの大事な恋人。」

「・・・・・・うん・・・・・・。」

「あれ。不服かな。」

違うとアッテンボロー。



いつになったら。

「いつになったら私は女に戻るのかなと。周りがうるさそうだし本当疲れちゃうよ・・・・・・。」

ベッドにやさしく恋人を下ろし横たわらせて。

「おれ公私ともども側にいるから。」

やわらかい淡い金褐色の髪に指を通してアッテンボローは頷く。

「ごめん。迷惑かけて。」

全然と男。

「一度お前の副官になりたかったんだよな。ふふふ。これでラオ中佐も口出しできまい。

執務室でえちーできるかもしれないな・・・・・・。」






できないよ。

本当。まだまだ先が恐いアッテンボローであったけれど。

肌の触れ合う距離にいてくれる男の体温を感じて安心もする。

たくさんのキスを重ねて。



抱き合いながら眠る・・・・・・。




fin




  



無駄に長いし、えちーむずかしいですー。書くのが。

2話のはずが4話になりしかもまだ女に戻れないアッテンボロー。

これっておちなしってことですよね。

もう一本くらいこんな話が出てきそうです。


りょう