辺塞の安寧たる一日




恒星アルテナを中心にいただくイゼルローン要塞は、一定の速度で公転する人工天体である。帝国

の首都星オーディンより六二五〇光年離れたこの要塞は、現在自由惑星同盟の手中にあった。

同盟軍の若き智将、ヤン・ウェンリー提督の功によって難攻不落と言われたこの要塞が陥落してよ

り、ほぼ三年の歳月が経過している。

現在イゼルローンに大きくもない尻を鎮座ましましているのも、要塞司令官と駐留起動艦隊司令官を

兼任するそのヤン・ウェンリーで、同盟の首都星ハイネセンから遠く離れた此処は、最前線にも拘わら

ず穏やかな時を刻んでいた。






その日、オリビエ・ポプランは黒髪の美しい下士官の部屋で朝を迎えた。絡みつく黒髪が仄かにシャ

ンプーの良い香りを漂わせていて、ポプランの顔がほころぶ。日々、イゼルローンのご婦人がたに『博

愛の何たるか』を説いてまわることに余念のない彼は、大抵は毎日別の部屋で目覚める。だが、この

黒髪の美人とは今日で三日を数えるに至り、やや驚きを禁じ得なかった。

それだけ気に入ったのか、と問われれば、人道上YESと答えるであろうポプランだったが、実を言え

ばそうでもない。単に此処数日は博愛を説くために要する労力がなかったのである。

つまり、少しだけくたびれていたのだ。それと言うのも、最前線たるイゼルローンで新兵の訓練に当

たっているからだったが、そればかりは文句を言うわけにも行かない。そもそも、苦情を言うべき相手

は遠く離れたハイネセンであって、司令官たるヤン・ウェンリーではない。ついつい垂れたくなる不平

は、相棒で友人のイワン・コーネフに悉く封じられてグウの音も出ない。つまり、ポプランは面白くな

かったのであった。腐りはじめるとお得意の博愛主義も上手く行かず、同 じ女性の部屋で朝を迎える

結果になっている。だが、別に彼女に不満があるわけでもないから、全くつまらないわけでもなかった。



「ん……オリビエ、もう起きたのォ?」

甘ったるい声が耳朶を刺激した。その耳を擽るような声を、ポプランは少しだけ気に入っている。吸い

付きたくなるような厚い唇を吸って、腹筋で起き上がる。朝一のキスは甘酸っぱい。

「うん、昨日早く寝たからかな」

名残惜しげな唇を解放して、ポプランは手早くアイボリーホワイトのスラックスを穿き、ネクタイを締め、

ジャケットを羽織る。きっちりは着ない。別に不良軍人を気取るわけではないが、そのほうが自分らし

いと思うからである。いや、そう思う時点で不良を気取っているのかもしれないが。

ベッドで艶やかな肢体を曝している彼女に再度キスをして、ポプランは部屋を出た。

早く寝たというのは嘘だ。昨晩の激しい情交は深夜まで続いたから、どちらかと言えば寝不足であ

る。だが、目が覚めてしまったものは仕方がない。大欠伸をしながら明るい褐色の髪をガシガシと掻い

ていると、前方から鉄灰色の髪の細身の仕官が歩いて来た。

「アッテンボロー提督じゃありませんか、お早いお目覚めで」

分艦隊司令官のダスティ・アッテンボローは何かを考えていたのか、ポプランが声をかけるまで彼に

気づかなかった。愛嬌のあるそばかすがはっきりと見える位置にまで来ていながら、その薄い色彩の

瞳はポプランを捉えることをしない。

それが少々癪だったから、ポプランは精一杯ふざけて大仰に挨拶をした。わざとらしく胸の前で恭しく

腕をかざして見せたのは、『不良中年』こと要塞防御司令官の真似である。



「なんだ、お前さんか。……そちらこそ随分と早いじゃないか、昨夜は独り浮寝だったのかい?」

不機嫌そうな声にポプランは肩を竦める。どうやら何か面白くないことがこの若い分艦隊司令官閣下

にあったらしい。ポプランとて上機嫌なわけではなかったが、根が明るいので此処は引くのが良策で

あると理解して無駄なことは言わないと決めた。

「残念ながら、小生は女つきでないベッドで眠る趣味はないんですねェ」

それでも矢張りおちゃらける。しかしそれは一〇〇パーセントではないにせよ、ほぼ事実だったので、

言った本人は大真面目であった。尤も、相手が上機嫌に見えたなら、「アッテンボロー提督のように

ね」と皮肉を付け加えたはずであるから、どこまでが真面目なのかは判然としない。

独身主義を謳うアッテンボローは女性に縁がない。尤も、それは敢えてそうしているからであって、全

く彼がもてないわけではないことを、ポプランは知っているから、それくらい言っても良かったかも知れ

ない、と口を閉じてから思った。

ポプランの軽口を鼻先で笑ったアッテンボローは、一つ大きな溜息をわざとらしく漏らして「これから朝

食なんだが」と目の前の遊び人を誘った。不機嫌だと思っていたが実はそうでもなかったのか、とポプ

ランは内心で首をひねったが、断る理由がないので、再び大仰に「お供させていただきましょう」とおど

けて見せた。



やや付き合い難い感が否めないとはいえ、ポプランにとってアッテンボローはコーネフの次くらいに軽

口を叩き合える相手である。シェーンコップの不良中年はどうにも苦手だが、アッテンボローは上司と

しても、友人としても不可はない。

どうやら不機嫌ではなかったらしい分艦隊司令官に、ポプランはとうとうと『女性の魅力』を語って聞か

せる。あわよくばその主義主張を捨てさせようと言うものだが、それは他人を啓蒙するのが目的では

なく、単に面白いからである。

「……ですからね、アッテンボロー提督も一つ女と寝て見ちゃァいかがです。いいもんですよ」

「余分なお世話だよ、お前さんこそ少しは身を慎んだらどうだ」

逆に説教されて、ポプランは嫌な顔をしてみせる。

「これだから、三十代は意地が悪いし、根性がない。いいですか提督、この世で一番楽しいことは何

だ、それは女ですよ、おんな!」

力説する“自称”撃墜王を呆れたような瞳で見詰めながら、アッテンボローは首を振った。

「そうとも限らんだろう?現にヤン提督なんかは女より歴史が好きな人じゃないか」

あの人は特殊だからあれでいいんですよ、と明るい褐色の髪を揺らしたポプランに、感心したような表

情を一瞬だけ見せたアッテンボローは、トレイの上にサラダを乗せた。

「以外と認めてるんだな」

ヤン・ウェンリー提督をである。上官と名のつくものには敵意しか抱かないように見えるポプランへ贈

る、アッテンボローなりの最大の賛辞であった。

それが賛辞と理解しながらも、ポプランは不本意そうな顔をつくってみせた。渋面でも、陽光のおどる

ような緑色の瞳は、闊達に輝く。

「少なくとも、アッテンボロー提督よりは尊敬していますね。ヤン・ウェンリーという人間は、恋人にする

なら欠陥だらけで御免だが、上官にするならこれ以上はないくらい良くできた人ですから」

「ふうん、そんなものかねえ」

貶されたことを怒りもせずに、アッテンボローは食器の乗ったトレイを持ち、さっさと空席を探し出す。観

賞用植物のすぐ側に席を見出して、無雑作に椅子を引く。

それを追いかけながらポプランは、余分にパンを取った。アッテンボローがサラダの乗った皿しかトレイ

に乗せなかったのを見ていたからだ。



「ほらぁ、提督。何があったのかは知りませんがね、ちゃんと朝飯は喰ったほうがいいですよ」

本当は人の世話など焼くのは御免なポプランだが、目の前でそういうことをされてしまうとついつい面

倒を見たくなる性質である。横に構えてはいるが、本来は善良で人がいいのだ。

溜息をついたアッテンボローは、珍しく素直に礼を言ってパンを受け取った。

「何かありましたか、なんて聞きませんよおれは」

パンを細かく千切って口に運んでいるアッテンボローは、明るい髪と瞳の撃墜王をまじまじと見遣っ

た。そして目を瞬かせて、何度も頷く。

「なるほど、お前さんが女にもてる理由がなんとなくわかったよ。妙に人の気を掴むのが巧い奴だ」

別に褒めてるわけじゃないから、いい気になるなよ、と付け加えるのを忘れない痛烈なアッテンボロー

である。それにいささか鼻白んだものの、持ち前の調子良さを失わないでポプランは爽やかな笑顔を

向けた。

「そりゃね、努力のない奴は女に相手にされませんからね」

そんなものか、と首肯しながらアッテンボローは淡々とした口調で話し出した。



「おれには三人姉が居るんだが……どうにも女って奴は良く分からない。この間までおれの独身主義

に反対しなかったんだが、昨日の夜遅くにヴィジフォンが 入って、一時間も説教された。それで、何と

言ったと思う?今度休暇を取ってハイネセンに戻って来い、見合いをさせてやるって言うんだ」

ポプランは呆気にとられてだらしなく口を開いた。てっきり士官学校の同期が死んだとか、ハイネセン

の馬鹿政治家どもに無理難題を言われたとか、ヤン提督と喧嘩したとかいう全うな理由で塞いでいる

のだと思いこんでいたからだ。

「ちょ、ちょっと、アッテンボロー提督、そりゃァあんまりだ」

「何がだよ」

不満そうなアッテンボローにポプランは自然と噛んで含めるような口調になった。

「それは感謝してもいいような部類じゃないですか」

いいお姉さんじゃないの、と叫びたいポプランは若い分艦隊司令官を珍獣でも見るような目で眺めた。

ポプランのような『博愛主義』者から見れば、まさに外道もいいところである。

「だがおれは結婚なんかするつもりはないんだ」

それはそうかも知れないが、何も塞ぎこむことはない。ポプランはそう思ったが、それは口に出さな

かった。自他共に認めてタラシ癖のある彼は、こういう時も微妙な配慮を忘れない。おれは気を遣わせ

たら宇宙一かもしれない、と内心で自画自賛しながら、ポプランは少し年上の青年を上から下まで舐

めるように見た。

鉄灰色の髪はもつれた毛糸のようだが、その稀有な色合いが美しい。身体はポプランよりは少々小

柄だが、極極一般的に言って長身の部類に入るし、均整の取れた無駄のない肢体をしている。髪の

色をやや濃くしたような薄い色彩の瞳は、意思と知性を感じさせるに十分である。残念なのは顔のそ

ばかすだが、それはそれで愛嬌があって問題はない。寧ろそれがなかったら、かなり整った顔立ちを

しているから、冷たい印象を与えたかも知れない。

「……アッテンボロー提督だって、そうそう見てくれは悪くないんだから、全く女と付き合ったことがない

わけじゃないんでしょ?だったら、もっと人生を楽しまないと!見合いしたからって結婚しなきゃいけ

ないわけじゃないですよ。ちょっとデートを楽しんでくる、くらいに思えばいいです」

「そりゃね、おれだって全く何もなかったわけじゃない。だが、それほど良いとも思わなかったんだ、仕

方がないだろう」

口を尖らせたアッテンボローにポプランはやれやれと首を振る。

「それは、単に提督が下手だっただけでしょう!」

とんでもないことを言われて仰け反ったアッテンボローは、鉄灰色の髪を掻きまわした。何をどう反論

していいのか、明敏な思考をフル稼働させたが、思いついたのは没個性的なものだった。

「失礼だな、大概に」

確かにかなり失礼である。とある政治家の言葉を借りるなら、『言われなき侮辱』である。軍規軍律に

甘いヤン艦隊だから許させることで、まがいなりにも佐官が将官に向かって言っていい言葉ではな

い。無論、アッテンボローに制裁の鉄拳を下すようなつもりはないが、無礼なことこの上ない。

それを十分に承知しているポプランは、鼻から息を噴き出して、本当のことですよ、と言った。



「……アッテンボロー提督は、女の良さをご存じないんです。だから、そういう贅沢なことを言う!」

「どこが贅沢なんだよ」

「贅沢ですって! よぉし、それなら微力ながら小官が教えて差し上げましょう」

どん、とテーブルを叩いて、ポプランは叫んだ。年上のくせにどうしてこう晩熟なのか、と歯がゆく思う

ポプランである。三十そこそこで少将の地位を手に入れたような才能があるのだから、それをちょっと

他所に向けるだけでも、十分なはずなのだ。



+++



「――おい、どこまで行くつもりだよ」

アッテンボローは鋭気を漲らせて前を歩く明褐色の髪の男に問う。女性の良さを理解しないアッテンボ

ローにポプランは『女の楽しみ方』を教授してくれるという。余計なお世話だと思ったが、この憂鬱な気

分を払拭する気晴らしにはなるかもしれない、そう思ってアッテンボローは馬鹿らしいとつぶやきなが

らも、『博 愛主義を説くキラキラ星人』の後を追いかけた。

「まあ、こんなところでいいですしょう。さあ、アッテンボロー提督、そこに腰掛けてください」

指し示された場所と連れ込まれた場所の奇天烈さに、理解不能に陥りつつあるアッテンボローは、も

つれたような鉄灰色の髪をさらに掻きまわした。この明朗な撃墜王の意図するところがわからない、だ

からどうリアクションしていいのかわからない。



スパルタニアンの格納庫は、有事の活気が嘘のように静まり返っていた。分艦隊を指揮する『提督』

であるアッテンボローは、別に構えるわけではないが、空戦隊の溜まり場には滅多に顔を出さない。

アッテンボロー自身はスパルタニアンで広大な宇宙を、戦場を翔るというロマンチシズムを全く理解し

ないではなかった が、どちらかと言えば彼は矢張り艦隊同士の戦いに意義を見出す男で、いつかは

大艦隊を率いて強力な敵と――たとえば、ローエングラム公ラインハルトなど ――と直に戦ってみた

い、と密かに思っていた。

だから、本心を言うとスパルタニアンの格納庫などに用はない。気晴らしについて来てはみたものの、

若しかすると面白くもないヒロイックな自慢話を聞かされるだけか、と危惧したくなった。



それでも、指し示された消火栓の上に腰を下ろして、目の前で仁王立ちになったポプランを眺める。緑

色の瞳が『キラキラ星人』に相応しく輝いている。

「さあ、目を閉じてください」

「はあ?」

締まりのない声を上げてしまったのは、ポプランが悪い。わけの分からない場所へ連れてきて、さらに

目を閉じろという。そもそも、『女の良さ』を博愛主義者の信念にかけて――ヤン・ウェンリーだったら信

念という言葉に拒否反応を示すだろうが――アッテンボローに教授してくれるのではなかったか。

「いいから!」

なんで年下の、それも格下の遊び人に命令されねばならぬのかと思いながらも、渋々アッテンボロー

は瞳を閉じた。こと、女性関係にかけてはポプランに敵わないから、そればかりは仕方がない。



大人しく閉じられた瞳を偉そうに頷いて見ていたポプランは、意外とアッテンボローの睫毛が長いこと

に気がついた。髪をやや濃くしたようなその色は、どことなく繊細で美しい。

ポプランは一瞬だけ彼の悪魔に祈ってから、ぐっと顔を近付ける。いささか抵抗感があるものの、整っ

た顔立ちは美人と呼んで差し支えはない。まあ、これでも博愛主義さ――とポプランは内心で呟い

て、アッテンボローの唇に、そっと吸い付いてみた。

「ぎゃっ!」

悲鳴を上げたのはアッテンボローである。何をするつもりなのかと待っていたら、キスされた。いくら独

身主義を吹聴し、女性関係の華やかならざる彼であって も、唇の感触くらいは知っている。しかし、重

ねられたそれは彼の知るどれよりも熱くて、そして情熱的だった。やや硬いのを除けば、決して悪いも

のではな い。だが、それを許容できるほど、アッテンボローは寛大ではない。

「な、な、な、何してるんだ、お前!」

「何って、キスですよ」

思い切り突き飛ばされてバランスを崩したものの、持ち前の身軽さで体勢を立て直したポプランは、唇

を拭いながら平然と言った。ポプランは、ようするに、アッテンボローが『女の楽しみ方』を知らないの

は、房事が拙いからだと思っている。だから、そちらの方面にかけては熟練者の自分が、教えてやろ

うと心に決めたのであった。だからといって、男相手に情事を演じるのも妙なものだが、根が軽いポプ

ランは自分では理屈が通っていると思っている。

「ちょ、ちょっと待てよ……」

流石に逃げ腰になったアッテンボローは、慌てて立ち上がり撤退を試みたが、いやに真面目な顔をし

た撃墜王に行く手を阻まれて、壁際まで追い詰められた。

「駄目ですよ、アッテンボロー提督。世のなかにはこんなに楽しいことがあるって、教えてあげますから」

「いい!いらない!」

激しい拒否の言葉にも動じず、ポプランは追い詰めたアッテンボローの唇に再び口付ける。

「ん……」

舌が這入りこんで来て咥内を嘗め回す。腰に回された手が艶を含んでそこをしつこく撫で回して、アッ

テンボローはひどく動揺する。それは咥内を探る熱いものの動きが絶妙で、腰を撫で摩る手が軽妙

で、頭の中心がくらくらと要領を得なくなり始めたからだった。

「あ……やめろ、よ」

漸く解放された唇が甘く痺れていて、上手く言葉が紡げない。腰に回された手がなければ、そのまま

その場にへたり込んでしまいそうだった。



「あぁッ……!」

下肢が熱くなったと自覚していると、手が伸びて来てそこに触れる。スラックスの上からの微かな愛撫

だったが、動揺したアッテンボローには十分な刺激で、漏れ出そうになる嬌声を噛み殺した。

「気持いいでしょ。女にも、こうしてやるんですよ」

言って、屈みこんだポプランは無雑作にアイボリーホワイトのスラックスをずり下げる。逃げ出そうにも

驚愕ど動揺に足が覚束なくなっているアッテンボローにはそれが不可能で、されるままになっていた。

ちゅっと水音を立てて熱くなった下肢にポプランが吸い付く。信じられないような視線を送るが、そばか

すの散る端整な顔が紅潮しているから、いささか格好がつかない。

「んぁ……あ……」

舌の動きがやけにリアルに感じられて、アッテンボローが身を震わせていると、一たん口を離したポプ

ランが妙に熱の籠もったような口調で言った。

「やだなあ、提督。そんな色っぽい声出さないでくださいよ、こっちまでその気になっちゃう」

「それは、お前が……」

抗議する声は精彩を欠いていた。その気になられても困るが、今の状態も最大にまずい。そう理解し

てはいるのだが、身体が言うことをきいてくれない。

「あ……ああ――んッ」

繊細で且つ躍動的な愛撫に、アッテンボローはあっけなく迸情する。女性経験もそうないというのに、

男相手に極まってしまった自分を信じられない思いだったが、事実は覆せない。

汗の浮いた額をぬぐって呼吸を落ち着けるため深呼吸をしていると、ポプランはアッテンボローを再び

座らせて、脚を掲げた。あっと言う間もなく奥の奥まで暴かれる。

「おい……ポプラン、お前…さんは、女好きなんだろうがッ!」

だからやめろよ、と頼りない声で制止したアッテンボローの髪を、ポプランは申し訳なさそうにそっと撫

ぜる。その何気無い動作も絶妙で、声が上擦りそうになった。

「そうなんですけどね、アッテンボロー提督があんまり可愛い声で鳴くから、その気になっちゃったんで

すよ。責任とってもらいます」

そんなこと知るか、と喚いたつもりだったが、実際に出たのは衝撃と艶を含んだ声だった。

「あァ――!」

灼熱が敏感な体内へ這入りこんで来る。引き裂かれるような痛みと、それを上回る甘い疼きがアッテ

ンボローを襲った。ゾクゾクするような感覚が背筋を走りぬけ、気がつくと必死になって自分を苛む男に

縋りついていた。



+++



「――最悪だ」

アッテンボローは薄汚れた床に無雑作に裸の腰を下ろして、呟いた。そして頭を抱える。そのすっかり

乱れ、もつれたどころの騒ぎではなくなっている鉄灰色の髪を、宥めるように撫でていたポプランは、

その手を邪険に払われて不平の声を上げた。

「だって、アッテンボロー提督が悪いんですよ」

「なんでだよ!」

激しい抗議の声を勢い良く上げたアッテンボローだったが、すぐに腹部をかばってうずくまった。

「チクショウ、腰と腹が痛ェぞ」

呻きと共に漏れ出た言葉に、流石のポプランが頭を掻いた。両手を広げておどけて見せるものの、表

情は真面目だった。

「悪かったと思ってますよ、そりゃね。でも……アッテンボロー提督だって楽しんだじゃないですか。

だったら、水に流してくださいよ」

「お前さんは、いいかも知れないが! おれはもう……あああ、お婿に行けないッ」

アッテンボローがさめざめと泣いてみせると、ポプランは大いに呆れた。

「いやだなあ、何ですか、それは。あなたは独身主義者じゃなかったんですか。それとも、何です? 

突如主義主張を捨てて、キャゼルヌ少将みたいにあマイホーム志向者になったんですか。ひどい変説

だなあ。これだから三十代は……」

度し難いものだ、と肩を竦めてみせるポプランをアッテンボローは睨みつけた。

「うるさいな!そもそもお前さんはおれに女の良さを教えてくれるはずだったんじゃないか。どうしてこ

ういうことなるんだよ、それこそ意味がわからないぞッ!それに、お前さん――女専門じゃなかった

のか」

痛いところを突かれて、ポプランは明褐色の髪を何度も掻きまわす。

「そうだったんですけどね、おかしいな……。まあ、だけどいいじゃないですか。分かりましたよ、不肖

オリビエ・ポプラン、博愛主義の範疇を広げることに致しました」

恭しく礼をするポプランに盛大な溜息をついたアッテンボローの口元に何時の間にか笑みが浮かぶ。

どうしようもない馬鹿だ、と思うものの、不思議と腹立ちが 治まって来たらしい。これが、ポプランの人

徳かな、と奇妙な感覚に抱かれながら、さてこの事態をどう処分するかと腹の中で考えるアッテンボ

ローであった。






時に、宇宙歴七九八年十一月九日。

帝国において「神々の黄昏」作戦の最終人事が決定した翌日である。

未だ帝国の諸将はイゼルローンに達せず、フェザーンは破られず、永遠の安寧を刻んでいるかに見え

る秋の早朝の出来事であった。





2009/10/10


「紅青堂」さまの涼本さまからPAを頂戴しました。まだ惚れていない感じですね。

肉欲に腰を振ってるみたいな。(振ってません)

私が書くとあまあまなので違うテイストのPAで素敵です。

ありがとうございます!!惚れてないPAの続編を書いてもいいよと涼本さまのおゆるしがある

のでこの「格納庫でイタシチャッタ」続編を書きたいなと思っています。

お返しに双璧をと思っても・・・・・・書けません。格調高い双璧に手が出ません。

涼本さま、初PAです。ありがとうございました。

「紅青堂」さまへは下のバナーでジャンプ!!萌えトークもエキサイトしますよ。

双璧小説絶品です!!



続編は管理人が書きました。お目汚しで申し訳ないのですが読んでもいいよという

優しいかたはここをクリックしてください。