どうしたって変わらないもの・4

アッテンボローが都合上のお引っ越しをしてきて数日が経過するも。
ちょくちょく酔狂でやってくる要塞防御指揮官を(アッテンボローを
からかうのが楽しいらしい)追い払うことがポプランの日課になりつつ
あった。
不毛といえば不毛な日常で、不実といえばそうともいえなくはない。
「いっそのこと小生の部屋にすんでくれませんか。毎日提督を不良准将
からお守りするのはやぶさかではないですが、骨が折れます。」
玄関ホール止まりで実は、寝室にも客間にすら入ったことがないのが
オリビエ・ポプラン。
哀れを誘う。
「貴官と同じ部屋で暮らすなんてごめんだ。おれは一人で自由な時間を
過ごすのが好きなんだ。勝手なことをほざくんじゃない。」
翡翠色の髪をかき上げてうるさそうにしているアッテンボローはまたしても
「玄関ホール」で隣人に「吐いた。」
客間くらい入れてくださいよとハートの撃墜王は言うが、絶対いやだと
青年提督はにべもない。
そんなつれないところも好きだけれど。
「シェーンコップのエロ事師はね。あなたに本気じゃないんです。隙が
あれば、綺麗なあなたをちょいとばかり、いただいてみようかという実に
意地汚い野望を抱いているんですよ。」
だから毎日小生がせっせと追い払っているじゃないですかと進言
するが。
「そんなことはわかってる。だからシェーンコップは度し難いし、
好きじゃないんだ。悪ふざけがすぎる。いい年こいて。俺は男の
尻に興味がないのにあいつは何を勘違いしてるんだろうな。全く。」
と、また「他人事」のように素っ気ない口調で言う。
あくまで、玄関ホールにて。
そんなつれないところが好きなんだけれど、わびしい気持ちもちらり。
「まあ、そんなに落ち込むなよ。ポプラン。今夜はシェーンコップは
来ないから。お前さんはお前さんで楽しい夜を過ごせばいいよ。」
アッテンボローの笑顔は夏の香りがする。輝く小川のきらめきを思い
浮かべる・・・・・・。
「今夜は、この後リンツとうちで飯をくうんだ。だから邪魔者は来ない。」
にっこりと微笑むそばかすを浮かべた天使。
小川のきらめきも鳥のさえずりも、一瞬のうちにかき消された。
ちょ、ちょっとまってくださいよ。
「リンツって、あの薔薇の騎士連隊長のですか。」
ポプランは泡を食った。
「うん。それ以外のリンツがいるのか。」
最近な。
「演習で薔薇の騎士連隊の若いのを連れて行くので打ち合わせが
多いんだ。あいつは連れにはもってこいだな。頭の回転もいいし
性格もまともだし。」
13代目ははずれだが14代目はなかなかかもと青年提督は自宅に招いて
「打ち合わせ」と食事をするとにこやかに隣人に言った。
あなた、小生を馬鹿にしてますよねとポプランは口惜しげに言う。
「もしかして料理は提督が作るんじゃないでしょうね。」
「俺の家で俺以外に誰が作ってくれるんだよ。」
だから「小生が作りますってば。心と愛を込めて。」
ハートの撃墜王殿、半泣きである。
玄関ホールで。
そういうのりがいやなんだってばとアッテンボローはため息をついた。
「お前にはシェーンコップ撃退で何かと手を借りたけど・・・・・・俺は正直
お前の思うような関係をお前と結ぶ気持ちもないし。期待されても悪いが
困るんだよな。」
どうしても変わらないものって、あるだろ。
アッテンボローが気まずい空気の中で呟いた。
どうしても変わらないもの。
それは二人の「関係」だったのかなとポプランも、ため息一つ。
玄関ホールで男が二人、ため息。
ピンポン。
チャイムが鳴って今夜のアッテンボロー家のゲストがやってきた。
なんだか気まずい雰囲気だと思うのは。
「小官だけでしょうか。提督。土産にブランデーをお持ちしたんですが。」
リンツは場の異様な空気に飲まれかけたが、アッテンボローがそれを
やんわりと訂正した。
「いや、いま準備してたら隣人がきただけ。もう少し飯ができあがるまで
時間がかかるけど。これじゃ外食の方が良かったな。」
翡翠の色をした・・・・・・もつれそうな髪をくしゃっとかき上げて青年提督は
カスパー・リンツ中佐に「人好きのする笑顔」で言った。
当人はほぼ無意識でそんな無邪気な笑顔を見せる。
誰にでも。
ポプラン以外には特に。
「なんなら手伝いましょうか。それほど料理が得意でもないんですが
多少のことはできますよ。」
リンツは見るともなしにハートの撃墜王を見たが、ポプランはベレーを
かぶり直して。
「了解です。隣人は帰ることにします。楽しい夜を。提督。」
虚勢とも違う笑みをわずかに見せて綺麗な敬礼をして退場した。
ダスティ・アッテンボロー少将閣下の「仮の住まいの玄関ホール」を辞した。
・・・・・・茶くらい飲ませてやれば良かったかなとアッテンボローは
さすがに思ったけれど。
あの手の男はしょげたりしないしタフである。
別に気を使ってやる必要性はないと気分を転換した。
やさしくすればつけあがるのが、ポプランの常だし。
「お。うまそうな酒。気を使わせちまったな。リンツ中佐。」
などと客人が持ってきた土産に相好を崩した。
「少将閣下の口に合うかはわかりませんけれど、お呼ばれされたら土産を
持って行けと言うのがうちの姉の口癖で。」
そんなごく自然なリンツにアッテンボローは友人として好感を持ったし、
だから「さあ。玄関ホールでおしゃべりってのもなんだし、客間に入ってくれ。」
などと忌憚なく言えるのであった。
だからってうちに来るなよとコーネフは「客人」に文句を言った。
客と分類していいのかなぞだが、アッテンボロー提督にあっさり振られた
オリビエ・ポプランがコーンウィスキーを持って部屋に来た。
静寂の時間が破られるのを覚悟して、コーネフはウィスキーの相伴に
預かった。
「まあお前さんくらいの恋の達人ともなれば、いつまでも脈がない相手を
追いかける不毛さを知っているんだろう。やけ酒をあおるほどのことでも
あるまい。」
言いにくいことをズバリという男だな、お前はとポプランは口をとがらせた。
いつかは誰かが言わなくちゃいけない真実ってものがあるんだともう
一人の撃墜王ははっきり言う。よどみなく。
「お前さんはすぐに現実逃避をするが。」
コーネフが言いかけると「いけないのかよ。」とポプランはグラスを
あおった。
・・・・・・いけないと思うコーネフである。
「アッテンボロー提督はお前さんを否定してるんじゃない。お前さんの
望む二人の関係を否定している。そうだろう。」
それは個人の自由じゃないのか。
そんなことは本当は僚友から言われずとも、ポプランはわかっている。
思うひとに恋いこがれ。
けれどその思いが届かない。
そんなことはこの世に幾千万と、星の数ほどありふれた話。
どうしたって変わらないもの。
恋心とて同じだとポプランは思う。
惚れたくて惚れた相手じゃないから、困っている。
いくら飲んでも、今夜の酒は味気ない。
ポプランはもう一歩踏み込めない自分が情けなくもあり。
ますます酒がまずくなる夜。
次でおわれそうな希望が。

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