どうしたって変わらないもの・3

2230時。
アッテンボローは久しぶりに良くお湯がでるシャワーを堪能した。
戦艦に乗っているときの船室のシャワー程度も湯がでなかったので、存分に湯が
でるとひどく文化的なことのように感じる。
ともかくこざっぱりと体を洗い終えて、浴室を出た。
ざくざくとタオルで自分の髪を拭く。
のびたなあと思うけれど、切りに行くのがちと面倒くさい。青年提督は自分の身の
回りに、あまり頓着しない。髪も適当に伸ばしているし実のところ頻繁にブラシを
入れるわけでもない。勝手にうねるので勝手にさせている。
バスローブを着て報道番組でも見ようとソファに座ったところで・・・・・・。
ピンポン。
おいおい。もうじき2300時じゃないか。
立体ビジョンをつけて時刻を改めた。こんな時間の来訪って誰だとアッテンボローは
眉根を潜めた。手元にあるインターフォンをとり、「どなたですか。」といささか
憮然としていった。
つれない男(ひと)ですなと、低いが豊かな声音がアッテンボローの耳に飛び
込んできた。
「つれないもなにも、なぜ貴官がそこにいるんだ。シェーンコップ准将。」
「このまま廊下で話をさせるおつもりですか。もう夜も更けてきたんでご挨拶に
参じた次第です。」
言葉は丁寧だが、いっていることはむちゃくちゃだ。
「・・・・・・悪いが美容と健康のために0000時には就寝を心がけている。
挨拶など特にいらないし、必要性を感じない。では准将、ごきげんよう。」
とは言ったもののアッテンボローは、緊急に貞操の危機を感じたので、バスローブ
ではなく素早くシャツとジーンズを身につけた。
エネルギーパックを装填したブラスターを手元に引き寄せて、ドアに近寄り
様子をうかがおうとした。
ばちっと回線がショートした音がしてドアはすーっと自動的に開いた。
「いや。すみませんな。あけていただける気配が微塵もなかったので、
電子キーをショートさせてあけました。アッテンボロー少将閣下。」
グレイッシュブラウンの髪と眸を持つ、怜悧な美丈夫の要塞防御指揮官殿は
「なんの悪意もなく」アッテンボローの部屋の鍵を壊したのである。
その上、あまり色気のない格好で過ごしてるんですねと人聞きの悪いことを
堂々と言ってのけた。
ば。
「馬鹿か!お前さんは。あけないというのはあけたくないからに決まっているだろ。
無理矢理ドアを壊してあけてはいってくるとは、撃ち殺されても文句は言えないぞ。」
とアッテンボローは銃口をシェーンコップの胸に突きつけた。
心臓に。
「そのお言葉、そっくりそのままお返ししましょう。会いに来たということはあなたに
会いたいからこそでしょう。わかりませんかな。青年提督。」
ブラスターが心臓に当てられているのに、ワルター・フォン・シェーンコップは
男にしては華奢なアッテンボローを、ぎゅっと抱き寄せた。
「・・・・・・・殺すぞ。お前。」
男に抱きすくめられてアッテンボローが嬉しいはずもない。アッテンボローは
独身主義だが、それは女嫌いだからではないし、男が好きというわけでもない。
仕事が好きなだけである。
「あなたには私は撃てないでしょうな。」
この男の不貞不貞しさといったら。かわいげの欠片もない。まだ隣の馬鹿撃墜王
の方がましである。
「ほう。買いかぶってるな。不法侵入でこちらとしては十分お前さんを撃つ
大義名分はあるんだぞ。」
ぐいっとトリガー(引き金)に力を込めようとアッテンボローがすると、さらに銃器に
詳しい要塞防御指揮官殿は安全装置をかちりといともたやすく入れて、不遜な笑みを
見せた。
「これでは撃てないと思いますがいかがでしょうかな。閣下。」
性質が悪いわとアッテンボローが怒鳴ったときに、二人の背後から怒気を
はらんだ声が・・・・・・。
「随分、風情も風雅もない口説き方をなさるんですね。シェーンコップ准将。
意外です。ところで、いまあなたの延髄に当てているブラスターには当然
安全装置はなしですよ。」
借りを作るのはいやだがこの際は仕方がない。
「もっと早くに来い。馬鹿野郎。」
アッテンボローは悪態をついた。
「提督こそ。危機に瀕したらもっと大声で救助を求めてくださいね。まったく
隙だらけなんだからな。困ったひとだ。」
オリビエ・ポプラン少佐は唇をとがらせて文句をいっている。
ともかく。
「あまり見ていて麗しくない光景ですし、准将ほどのひとが無理強いと
いうのは同じく香水の戦いの覇者として、小生とても幻滅しちゃいます。
いささか興がないと思いませんか。」
ポプランの口調は軽いトーンだが、シェーンコップの首に確実に銃口がセット
されている。
間違いなく、ポプランにはトリガーを引く躊躇はない。
この状況のどこがおかしいのかわからぬが、ワルター・フォン・シェーンコップ
准将は両手を軽くあげて、アッテンボローの体を解放すると同時に、含みのある
笑みをこぼした。
「ちょっとした冗談だ。麗しのアッテンボロー提督にお目もじしたいと思うのは、
お前さんも男として理解できるだろうに。銃など出して物騒な小坊主だな。
ポプラン。」
不法侵入をしておいて良くそんなことがいえるなとアッテンボローは毒づいた。
「素直にあけてくれれば大事にはならなかったんですがね。」
シェーンコップはわずかに口角をあげて微笑んだ。
そんな言い分が通るもんかと青年提督はお冠である。
けれど准将は犯罪を犯しているわりに、鷹揚である。
「おい。貴官がしたことは犯罪だぞ。わかっているのか。シェーンコップ准将。」
と、アッテンボローが小突いても、要塞防御指揮官殿は涼しげな顔。
「そういう些末なことよりもなぜ、アッテンボロー提督に何か起るとこの
こしゃくな小僧がしゃしゃり出るのです。」
とぐいとアッテンボローのあごを指で持ち上げた。
些末なことで終わらせるな。
ひとの家のドアを壊しておいてとアッテンボローは大いに不機嫌になる。
「この小僧はあなたのなんなんですかな。私はそのことの方に関心が
ありますな。」
こら、不良准将。
「気軽におれの提督に手をかけないで頂きたいですね。」とポプランが
ぴしゃりとシェーンコップの腕をはたいた。
「子供は寝る時間じゃないのかな。もう夜中だぞ。ポプラン。いまは大人の
時間だ。」
「年寄りは早寝早起きってね。健康のためにも、お部屋に帰っておやすみに
なるのは准将の方ではないでしょうかねえ。」
・・・・・・あのな。
「二人とも楽しそうに盛り上がってるけど、俺みたい番組あったんだぞ。もう
おわっちまったじゃんか。まあ、報道だしあとでネットで見るとしても。お前さんたち、
おとなしく帰ってくれ。男二人のむさ苦しいののしりあいなどききたくないしな。
そろそろ眠くなってきたし。・・・・・・・シェーンコップ、壊したドア、なおして帰れよ。」
・・・・・・危機さえ去れば、まるで「渦中の人」ではないようなそぶりのアッテンボロー
であった。
「あんたは無防備なひとですねえ。」
「お前は無防備なやつだな。」
シェーンコップとポプランは期せずして、同じような文言を吐いた。互いに顔を向けて
シェーンコップは詰まらんと興ざめしきった風情でいい、ポプランはなんだってこの
不良と同じようなことをと、ぶつぶつと言っている。
うるさいな。
アッテンボローは堪忍袋の緒を切らした。
「今晩は初めてこの部屋でゆっくり寝ようと思って帰ってきたんだ。邪魔ばかりしやがって。
お前さんたちの趣味だの、遊戯だのにつきあってる暇は俺にはないんだ。これ以上
がたがた言うと憲兵を呼ぶからな。俺は仕事が終わったひとときをゆっくりと過ごしたいんだ。
お前ら二人とも、邪魔だ。出て行け!」
アッテンボローはそういいきると、寝室に鍵をかけて寝た。
・・・・・・本当にしーんとしているので寝たらしい。
日を改めるかとシェーンコップは言って、ポプランに悠々と言った。
「ドア、修理しておいてやれよ。機械には強いだろう。撃墜王。」
と、ゆったりと堂々と、アッテンボローの部屋を後にして、消えた。
・・・・・・残されたポプラン。
仕方なく自分の部屋から工具箱をとってきて、アッテンボローの玄関のドアを修繕し
はじめた。
・・・・・・なんで俺が・・・・・・?
いささか不条理さが残るもののシェーンコップは単に、「からかい」にきた様子である。
「いささかどころか大いに不条理だ。」
などぶつぶつ言っていると寝室から「やかましい。静かに直せ。眠れないだろう。」
と、愛しいひとの罵声。
・・・・・・初日から、ぐれちゃおっかなあと思うハートの撃墜王殿でありました。
4へ続きます。

うわあ。悲しいくらい流れに無理ばかりが目立ち、自分の文に泣きそうです。
っていってもこれが実力なんですよ。
辛いなあ。もっとスキルがほしいですねえ。
|