どうしたって変わらないもの・2







イゼルローン要塞駐留艦隊においては勤務時間は制服組は通常、0900時から

1700時までとなっている。



「トップが残業をすると部下が帰りづらくなるだろう。」



などとしれっという黒髪の司令官閣下はまず残業などしない。

副官にもさせないようにしている。



けれど我らがアッテンボロー提督はワーカホリックで、残業が大好き。

この日も資料の整理から始まり、後日行われる演習の計画草案を、

あれやこれやとこねくって・・・・・・気がつけば2130時を越していた。



「すまんな。ラオ。またつきあわせて。」

とばっちりを食らうのはなれている中佐は気にしないでくださいという。

「閣下の仕事ぶりを見ているとこちらもついのせられてしまうので気に

なさらないでください。」

飯でも食いに行こうと誘うけれど仕事中、飲茶をさんざんいただいた

分艦隊主席参謀長は、それもお気遣いなくと辞退した。



アッテンボローはチャイナフーズがここのところお気に入りなのである。

・・・・・・胃がもたれてはかなわないとラオ中佐は帰り支度をした。



「ところで閣下、いよいよ今夜からしばらく部屋替えですね。佐官の部屋は

懐かしいでしょう。」



ほかの人間が言うと嫌みのようであるが、ラオが言うなら別である。

ラオは「比較対象がないくらい早すぎる出世」をアッテンボローが快いものと

思っていないことを平時から知っているし、アッテンボローは事実、いまの

自分の階級に辟易している。



「まあな。将官の部屋は馬鹿に広すぎて掃除に困る。留守がちだから

あれだけ部屋数があると実際独り者には大仰だなと思うよ。佐官の部屋でも

十分広かったし。その点、キャゼルヌ少将に今後意見具申したいところ

だなあ。」



家事能力の優れた妻や、家事に秀でた被保護者でもいれば片づくの

だろうが。

アッテンボローはそのどちらもいない。

要塞防御指揮官のように女性が掃除をしてくれるわけでもない。



「執務室に浴室と台所があればなあ。便利なのに。」

など冗談とも思えぬことを言うのでラオは苦笑して言った。

「そんな酔狂なことをおっしゃらないで今日は店じまいをしましょう。明日も

演習予定を見直さなければなりませんし。」



執務室に浴室とキッチンがあれば。



アッテンボローがそこに住むに決まっている。

何せこの青年提督には格調高いイゼルローン要塞の華美ともいえる装飾性

豊かな軍人用居住区が嫌いなのだから。



「気が進まないが、帰るとするか・・・・・・。」

しばしの住居へ。

アッテンボローはなぜかブラスターのエネルギーパックが装填されているか

点検して家路についた。







アッテンボローは方向音痴ではなかったので、自分が今夜から帰る新居の

位置はよく知っている。執務室に近いという点でキャゼルヌは便宜を図って

くれたのであろう。

いつか訂正を入れなければなるまいが。



キャゼルヌの従卒から預かったキーで自室のドアを開ける。

中は使われていなかったわりに清潔だ。事務監殿の部下がこの部屋を日中

掃除してくれたのであろう。



さて。

当然ながら冷蔵庫には電源は入っていたが何もない。



今夜の飯がないなと思って面倒だし、外に食いに行こうか、注文でもしようかと

考えていたら玄関でチャイムが鳴った。

・・・・・・。

アッテンボローはいつでも発射できるように腰にブラスターを装着した。

インターフォンでまず確認。






・・・・・・。

ってやっぱりポプランじゃないかよと脱力する青年提督であった。



「提督。お帰りなさい。いらっしゃるんでしょ。お隣のポプランですよ。あけてくださいな。」



仕事を終えて心地よい夜を過ごしたいのに、何が悲しくて野郎の相手を

せねばならないのか。

アッテンボローは本気で偽装結婚でもしようかと考えてしまった。



「なぜあけねばならない。少佐。俺はこれでも疲れてる。飯を食って風呂に

入ったら寝るつもりだから邪魔をしないでくれ。詰まらぬ用件なら明日きくこと

にする。ではごきげんよう・・・・・・。」



あー。提督ってばっ!ちょっとまってくださいよお、と廊下に響き渡るほどの

大声でポプランが叫んでいるのがインターフォンを切る前にわかったので、

ついアッテンボローはインターフォンのスイッチをまた入れて、いった。



「ばか。近所迷惑だろ。うるさいやつだな。恥ずかしいから中に入れ。」

と不承不承小生意気なハートの撃墜王をとうとう部屋に招き入れて

しまった。

右の腰にはブラスター。



にゃははと軍人らしさのかけらもないにやけた顔して、オリビエ・ポプランは

頭をかきながらアッテンボロー家の玄関ホールに入ってきた。



「いっとくけど本当に俺は今日は仕事で疲れてるから詰まらんことを言ったら

追い出すからな。」といいつつさり気なくアッテンボローは自分の右手を腰に

添えた。



「提督、そんな物騒なもの出さないでくださいよ。やだなあ。小生はただ新しい

隣人に引っ越しのご挨拶をしにきただけです。別になにもしませんから、ブラスター

なんてこんな至近距離で抜かないでくださいね。部屋に銃創が残ると改装工事に

手間がかかるでしょ。」



む、さすが肉体労働者組は鋭いなと思いつつアッテンボローはポプランの言った

言葉の意味をもう一度考えてみた。



・・・・・・。

「お前、俺がこの距離でお前を撃ちそこねるとでも思うのか。」

「小生がよけ損ねるとお思いですか。」



たった三センチ上からのぞき込んでくる陽気で洒脱な緑の眸を見ると。

・・・・・・その自信満々なせりふは何に基づいて出てくるのか不思議でならない

アッテンボローである。



なんて考えていたらあっという間にポプランに右手をつかまれて・・・・・・

「これ、引越祝いです。今日はお疲れのご様子だし、今夜だけが勝負って訳じゃ

ないですからね。」と紙袋を持たされた。



では、おやすみなさいと声音もさわやかにポプランはさっさと隣の自分の部屋に

帰っていった。



紙袋の中にはブランデーが一本とリンゴが2個、キャセロールの中に

仔羊肉のパイ包み焼きがはいっていた。そしてメッセージカード。



「腹が減ったらいってくださいね。小生料理は得意です。」






・・・・・・どれだけ食うと思われているのだろうかとアッテンボローは首を

かしげた。夜中に小腹が空いたらポプランを起こせば何か作ってくれる

とでもいうのかと想像すれば・・・・・・。



つい、苦笑してしまうアッテンボロー。

やれやれ。

妙になつかれてしまったものだなとまた頭をかいて、きっちり戸締まりを

確認した。






3へ続きます。







なぜ裏のPは紳士なんだろうかと困ってしまいます。

表のPの方がよほどイイコトしてますよねえ。意味なく続いてしまいます。

リハビリのつもりなので緩やかな目線で見てやってください。