許される唯ひとつの例外

まだ人類が地球(テラ)と呼ばれていた頃。
などとロジックの迷宮にイワン・コーネフはいた。
元から一人が好きだった。家族は嫌いじゃないが弟妹が多いせいで騒がしい。それはそれで平和なものだし好ましいことだがコーネフはクロスワードやロジカルな遊び、読書が好きな少年だったし、現在も好きだといえる大人になっている。愉快ではないが俗に言う「相棒」とかいう人間とは全く好みが違っている。あちらは係累がない。ゆえにひと肌恋しくなるのだろう・・・・・・なんて好意的にとらえてやろう。
今日くらいは。
人類が地球にいた時代。
12月25日は特別な日として人々に愛されてきた。
それならば。
少しくらい僚友の悪行も今日は赦そうとコーネフは思う。
問題の僚友は今夜の恋のお相手を探してせっせとあちこちに足を運んでいた。
まめだなと思う。
自分とは主義主張も違うやつだがなぜか不本意に「友達」といわれる。ヤン司令官の軍属の少年など自分たちをペアに思っているらしいし、司令官がつけたふたなは「2大撃墜王」。自分は同盟史上最多撃墜王になってしまったから仕方ないが・・・・・・まあ、これ以上ポプランのことはどうでもいいとコーネフは部屋でクロスワードパズルに興じていた。
チャイムが鳴って。
ドアを開けると彼の恋人、ダスティ・アッテンボロー少将がシャンパンを持ってやってきた。
「あれ、今日は仕事でしょ。提督。」
室内に招いてせっかくの酒だからグラスを二個用意した。つまみと呼べるものはあまりないなと冷蔵庫を見ていたらアッテンボローが生ハムとチーズを持参してきていた。
「仕事だ。終わったんだ。」
現在、1500時。
昼間から酒を持ってくるというのもアッテンボローらしくないし定時よりも早く早退するのもアッテンボローらしくない。このひとは仕事が恋人で嫉妬するのもあほらしいほど仕事がすきなのだ。
さっき。
「ポプランにあったぞ。ブロンドの美人と今夜過ごすとうきうきしてた。でさ、その・・・・・・付き合ってて悪かったんだけどポプランに聞くまでお前さんが今日誕生日だとは知らなかったんだ。お前、教えてくれなかっただろう。」
アッテンボローは二歳年がうえだし性質も安定している男で、コーネフは何となく彼に惹かれてる自分に気付いた。おそらく家庭環境が似ているのであろう。二人とも姉弟が多いし・・・・・・欠損家庭でもない。アッテンボローも気位は全然高くなくて下士官である自分たちと戯れあってはムライ参謀長殿ににらまれたりする。
そのうち三人でよく飲んではポプランは必ず途中で女性につられてどこぞに行くので必然として二人で酒を酌み交わすようになった。やっぱり似ているところが多いって感じたときには親しみ以上の恋心。さて告白しようかどうしようかと考えている先に「男が男に恋したっていうのはおかしいかな。」と先制攻撃された。さすがヤン司令官が引き抜いた名将だけある。若いが階級も高ければ負わされた責任も大きいアッテンボローは自分といると安心するらしい。
「あ、教えてなかったですね。誕生日。血液型はOですよ。」
「今更遅い。早退してきた。プレゼントといっても何がいいか考える間もなくていい酒だけ手に入れてきた。ほしいものがあれば後日いってくれ。」
誕生日おめでとう、とkiss。
自分もだけど・・・・・・このひともあまり経験がなさそうな晩熟(おくて)なキスでも、なぜか・・・・・・心、みたされる。
それが恋心。
ダスティ・アッテンボローが自らの職場を放棄していい理由はない。
許される唯一つの例外。
それは恋人の誕生日だけ、であった。
ねえ、提督。
「プレゼント、提督と過ごす一日がいいです。」
「変なものがいいんだなあ。まあ、そんなところ嫌いじゃない。」
「できれば好きっていってください。」
「・・・・・・できれば好き。」
じゃないでしょーとコーネフは苦笑したが。
「今度のお前さんの休日に休日をシフトするよ。ほんとにそれでいいのか。コーネフって欲がないよな。そんなところも嫌いじゃないな。」
欲なら大いにありますよ。
「できれば愛してるって言ってくださいね。」
それと。
「同じ手を繰り返したらアウトですよ。恋人なら誕生日に愛してるって言ってください。」
自由闊達の代名詞・ダスティ・アッテンボロー少将は誰にも縛られない。
許される唯一つの例外はイワン・コーネフのわがままや睦言。甘いジュバク。
「愛してるよ。でなきゃ仕事の日にここに来てないだろうが。」
アッテンボローは顔を真っ赤にして怒鳴った。まさかシャンパンの酔いではなかろう。
たまに聞くと。
「いいものですよ。おれも提督愛してます。」
Merry Christmasなど知らないが。
12月25日。イワン・コーネフは26歳になった。
まだ人類が地球(テラ)と呼ばれていた頃。
愛を語り合い抱き合い、キスを交わす恋人たちの聖なる夜でもあったと・・・・・・。
そんな古代の祭りは知らないが、二人の聖なる夜。
コーネフは相変わらずクロスワードパズルを解き、アッテンボローはその背中に抱きついてぐっすり寝入っていた。ベッドでさんざん愛し合ってキスをして。肉体労働者であるコーネフはまだ眠れなくて割合規則正しい生活をしているアッテンボローは一度寝ると短くてもぐっすりと眠る。そんな穏やかな夜。
ロマンスはわがままで疲れやすいものだが。
この二人はそれぞれのペースで一緒にいられた。
それは至極幸せな事実。
宇宙暦796年12月25日のことであった。
fin

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