dolce (ドルチェ)/甘く柔らかに

いつものようにワルター・フォン・シェーンコップ准将が恋人のダスティ・アッテンボロー少将の
部屋に行ったらまだいとおしい青年提督は帰っていなかった。
あいつは仕事人間だからなと勝手にアッテンボローの部屋でジャケットを脱いでネクタイをゆる
めてソファに座り込んでいた。
そう疲れているわけではないがこの典雅な要塞防御指揮官殿は存外に一人でいると・・・・・・
自分をもてあます。
この御仁。
なにせ戦闘以外の夜を一人で過ごすことがない。
早く恋人が帰ってこないものかとつい酒の瓶に手を出す。
趣味の一つでも持たねばなるまいな。
恋人とのひとときと酒とカードくらいしか自分の時間を使ってこなかった気がする。自分の趣味と
いうものを改めて考えてみるが。
本を読むのはきらいじゃない。
けれどどちらかといえば学術書が多く仕事につながる分野の本を読むことが圧倒的に多い。
映像ディスクを見るのもそういう方面が多い。
150歳まで生き延びようと思っている自分が無趣味では興がない。
体を使うことはたいてい不自由なく。否常人より遙かな運動神経を持っているので今更車やスピ
ードに夢中になるというのもどうかと思うし。
部下のカスパー・リンツ中佐は絵が趣味だったな。歌もうまかった。
自分はそれほど歌にも興味がない。
これではあまり面白味に欠けるなと思わぬでもない。一番長く夜をともにしたヴァレリー・リン・
フィッツシモンズ中尉はそんな自分とでも愉快に過ごしてくれた気がする。
それは女の寛容さかもしれないとシェーンコップは今はこの世のどこにも居ない記憶の恋人を
思い出していた。
「おい。おれ薔薇の騎士連隊の訓練室にいってたんだぞ。お前が・・・・・・いるかなと思って。」
と青年提督は自分の部屋で酒も飲まないで座っていたシェーンコップに帰って来るなり声を
かけた。殊勝なことを無愛想にいう姿すら・・・・・・惹かれてしまうシェーンコップ。
隣に座るアッテンボローを抱き寄せて艶のある唇に接吻けをおとした・・・・・・。
手慣れた仕草でアッテンボローの衣服を脱がそうとすると彼が何か書類のようなものを持って
いることに気づく。
「リンツがさ。訓練終わって落書きしてて。似顔絵書いてもらっちまった。似てると思うか。」と
アッテンボローはくるくると丸めていた木炭紙を広げた。そこにはアッテンボローの特徴をよく
とらえた簡単な似顔が描かれていた。しっかりフィキサチーフで木炭を画面に定着させてはい
るが触れると線がぼやけてしまうような気がするのかアッテンボローは扱いに気をつけて恋人に
見せた。
「・・・・・・芸がある奴はいいな。似ているじゃないか。悪くない。」
自分が無趣味なぶん幾分おもしろくないシェーンコップだったが今から絵心もないのに恋人の
似顔も描けない。
「似てるかな。すごいよなあ。器用な奴って。おれはこういう方面はからっきしだから見ていて
おもしろかったぜ。文武両道って奴だな。趣味を持たねばいけないなあ。軍務ばかりしか能が
ないというのはおもしろくない。・・・・・・あれ。」
お前さんの趣味はなんだっけ。
とアッテンボローは悪意なく綺麗な翡翠色の眸で恋人の顔を見つめた。
静寂。
「趣味は本来は赤毛の女だな。」
本来はな。今は。「今はこの不思議な髪の色の男に傾倒しきっている。お前が趣味だ。」
開き直ってやれ。
もとから肌のぬくもりに焦がれる定めの自分。今更宗旨替えするよりその道を究めるのも一興。
趣味はダスティ・アッテンボロー。
それでいいではないか。
「それは趣味じゃないし・・・ってシャワーも浴びてないのにそんなとこに・・・・・・ん・・・・・・。」
しっかりと長いかいなに抱きしめられてアッテンボローは逃れることができない。柔らかくて
少しばかりいじわるな優しい唇が素肌を責めてくる。ついアッテンボローはその甘い戒めに陶酔し
頬を上気させた。
趣味はダスティ・アッテンボロー。
今後履歴書を書くときは・・・・・・頭のほどを疑われそうだと思いつつ愛しい熱い肌に唇を這わせる
シェーンコップ。薄い肩をしたアッテンボローの白い肌に刻印を刻む。
甘い、朱い刻印。
シャツをはぎ取り唇をあわせながら互いの舌を求め合う。
「・・・・・・んっ。今夜のお前、へ・・・・・ん・・・・・・ぁん。」
シェーンコップのグレイッシュブラウンの髪に指を入れて熱に浮かされたようにアッテンボローは
あえいだ。男の頭を抱え込んで吐息を漏らす。
改めて。
「改めてお前が恋しいと思ったんだ。・・・・・・きっと誰よりも。」
赤毛の女のことは遙か昔の思い出。わずかに残る記憶の歌も今夜で忘れてもいい。今この
いとおしい恋人を愛し尽くすこと。自分の人生の本懐といってもいいかもしれない。中心を優しく
握ってみると熱を持ち固くなっていた。
「ゃ・・・・・まだ、はや・・・・・やめろよ・・・ぁぁっん。」
言葉とは裏腹にアッテンボローは汗ばむしっとりとした肌をシェーンコップに密着させる。離れが
たい思いになる。唇が、指が離れるととてつもなく切なくなる。
離すものか。
耳元で低い声音(こわね)で囁けば背中をのけぞらせて女のような声をあげてシェーンコップの
うでの中で髪を振り乱すアッテンボローがいる。自然と腰が動くようになった恋人がかわいいと
年長の男はその細い腰に手を添える。初めての夜に比べればこの営みがアッテンボローにとって
愉楽であるとわかる。
シェーンコップを見つめるアッテンボローの誘うような目つきが淫猥で、美しい。
挿入して腰を動かせば・・・・・・狂ったように自分の名前を呼ぶアッテンボロー。
離すものか。
安心しろ。
アッテンボローが達するように激しく腰を動かして「感じる」ところを突く。
指をしっかりと絡めて。
コンマ1ミリも離れたくない・・・・・・。
「ぁぁっん!!」と啼いたアッテンボローが絶頂に到達して震えた。締め上げられてシェーンコップも
瞬間頭が真っ白になる・・・・・・。
二人で楽園に行く・・・・・・。
何を。
「何をむくれてるんだ。青二才。」裸の背中を向ける青年提督の背筋を指でなぞる。朱い印は
白い背中にも刻まれてシェーンコップは満足する。
「男同士なのにいっちゃうっていうのがなんだか・・・・・・まだ恥ずかしいんだ。」
と青二才といわれたアッテンボローはシーツにくるまってもごもごと呟いた。
それはだな。
「素直に感じればいい。おれのことが好きなんだってことだ。」といって抱き寄せた。
速攻反論がかえってくるものと思っていたがアッテンボローは抱きしめられたまま抗わなかった。
そうなんだろうな。
そのつぶやき声に・・・・・・シェーンコップはさらに安堵して髪に優しい接吻をおとした・・・・・・。
fin

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