emporte (アンポルテ)/我を忘れて・3



14代目とA




間男、オリビエ・ポプランはよく知っていることがある。



あまりよいふたなではないがオリビエ・ポプランは一夜の

恋の達人で相手は必ずしも貞操観念の固い女性ばかり

ではない。

亭主の留守中に情事にふける人妻もいる。となると男の

たしなみとして痕跡を残さないことが肝要だと思っていた。

自分の亭主よりもポプランを選ぶのは男がだらしがない

証拠で奥方にはなんの咎もないとレディ・キラーは思って

いる。だからこそ自分はマナーとして女性に害が及ばぬ

ように、日夜努力を惜しまないでいた。



それを今回応用すればよいのである。









ダスティ・アッテンボローは特別な趣味は持っていない。

恋人のカスパー・リンツは絵を描くというなかなか高尚な

趣味を持っている。当人はカリカチュア程度でさほどよい

できの代物ではないというが、絵ごころがないアッテンボ

ローにすればやはり文化的な趣味に思う。



アッテンボローの趣味といえばジャーナリズムについてど

うあるべきかをといた本を流し読みする程度だし、しいてい

えば同盟憲章をそらんじられる程度であった。

これは子供のころからのならい。



「同盟憲章の本くらいこの船の図書室にあるだろう。おれに

借りようとしなくても。」



2000時。



突然のハートの撃墜王殿の訪問にアッテンボローはやや

不思議に思ったものであったが。

「図書室にあるものが貸し出しされてて。アッテンボロー提督

なら常にお持ちだったかなと。銃刀法あたり思い出せない

部分がありましてね。そういうの思い出せないと気持ち悪い

でしょ。貸してくださいよお。いじわるいわないで。要塞なら

自由がきくんですけどこの船では調べ物に不適切なんです

よね。」



別にいじわるをいっている訳じゃないがとアッテンボローはポプ

ランを自室の書斎に招いて数冊の本を選ばせた。

「うわ。これ帝国語で書いてるやつでしょ。随分マニアックな

蔵書ですね。」

本を選んでは見せているアッテンボローの側でポプランは

仰天して見せた。アッテンボローが持っている本をのぞき

込んでは感心した。

「お前さんは帝国語くらい読めるだろ。艦載機に乗る人間が

読めないとはいわせんぞ。」

「そら、読めますけどできれば検索がしやすい本がいいん

ですけど。」



簡単に読めるものがいいってことだなとアッテンボローは

思い。



それなら軍のコンピューターで調べればいいのにと青年提

督はぶつぶついいながらも、根はきさくで人がいいのでポプ

ランが希望するところの本を選び出した。

その間ポプランは将官の部屋は大きいですよねーとアッテン

ボローの部屋を眺めていた。

さすがに寝室ははいらなかったが居間やキッチンやトイレ

ットを見て「小生は人格なら将官クラスなのに。」とうそぶ

いた。



ひとの部屋をうろうろするなとアッテンボローはポプランを

書斎に呼び戻して。



「これなら読みやすいし調べやすいと思う。・・・・・・銃刀法を

調べるって何か悪いことに使うんじゃないだろうなあ。ポプ

ラン少佐。」

アッテンボローはきっとにらみつけた。

「とんでもないですよ。」

ポプランはアッテンボローの耳を拝借といって耳元で囁いた。



「コーネフのクロスワードにつきあってるうちにこれが答えられ

ないとウィスキーをおごらせられちまうんです。」

なんだ。

そういうことなのかとアッテンボローは気抜けして本を貸した。

詰まらんことをしてるんだなと青年提督は少佐にいい、少佐

は女にあぶれるとろくなことがないんですよねとかたをすく

めた。

「早く艦隊演習が終わって要塞に還りたいですよ。」

などポプランがいう。

イゼルローン要塞には。



「小生を待っている女性たちが軽く100万人はいますからね。」

「いってろ。しょうもない。」

アッテンボローは呆れポプランはにやにや笑っていた。



「食べ物や飲み物のしみつけたら弁償しろよ。」

アッテンボローは冗談をいいつつで玄関までポプランを見

送った。

「小生、これでも行儀がいいんですよ。」

絶対、嘘だなとアッテンボローは微笑んだ。それでもポプラン

が家にきてリンツがいなくても何もしなかったのを思うと結局

ポプランやシェーンコップが自分に粉をかけていたのは、新手

の冗談だったんだなとドアを閉めて思う。






実はこれでオリビエ・ポプラン少佐の計画は8分完成した。



そんなことはアッテンボローは知るよしはない。

彼は無頓着な男でもあったから気づくはずがなかった。







アッテンボローの恋人で部屋にカスパー・リンツ中佐が

部屋にきたのは2045時頃。

演習中薔薇の騎士連隊の実地訓練を宇宙で行っていた。

補充された新兵で宇宙を経験していないものもいるので

艦隊演習になると陸戦部隊も随行する。



8時間の演習が終了してかえってきたリンツはアッテンボロー

の出迎えのキスのあと・・・・・・なぜか無口になった。



アッテンボローは恋人が穏やかであまりすすんで話す男

ではないとわかっていたが、今夜の寡黙さはわずかに険悪

な成分が含まれていると察知した。



「なあ。何か考え事でもしているのか。リンツ。」

そういわれて何かを口に出そうとした恋人だったが、頭を

わずかに振って口をつぐんだ。



訓練中に何かあったのかなとアッテンボローは思うがそこ

まで口に出してはいけないと思い、静まりかえった部屋で

腹を空かせているであろう恋人のためにアイリッシュシチュー

の従姉妹版をあたためていた。

自分ができる料理というのがしれているだけに気の毒だが

自分は女でも女房でもないのでそう卑屈にならなくてもいい

なとレードルをくるくる回して思う。

リンツも気分転換のためか、書斎へ行ったり寝室や浴室、

トイレットなどをうろうろしていた。

多分妙な慰めはいらないのだろうなと皿にシチューをよそ

って。



こんなところまで。



耳元で囁かれた声には明らかに「怒り」がみち満ちていた。

「なぜこんなところまであの男を部屋に入れたんですか。」

・・・・・・。

「あの男って。」

アッテンボローは静かに怒気のはらんだブルーグリーンの

眸をのぞき込んだ。

「今夜、ここに男がきたでしょう。しかもたちの悪いことこの

うえないオリビエ・ポプランという男が。」

リンツの声音は静かだがアッテンボローを背中から抱きし

める指に力と何かいつもと違うものを青年提督は感じ取って

いた。



「さっきポプランがきたけど・・・・・・別にたいした用ではな

いぞ。まさかお前さんが気分を害しているのはそのことな

のか。」

でもどうしてポプランがきたことがわかったんだろうとアッテン

ボローは思いつかない。

くるのはきたってかまわないですよ。

「ここはあなたの部屋ですし、ポプランは一応僚友ですから。」



一応もなにも僚友以上の何者でもない。

「私がうまくないと思っているのは、なぜあなたが何も言わ

ないでいるのかということと・・・・・・なぜあなたの耳元にまで

あの男の香りがするんですか。」



香り?

「香り?あいつの香りって。なんだそら。」

「このキッチン、居間、書斎、寝室以外の至る所でポプラン

が使うトワレの香りがします。おまけにあなたのこんなところ

まで・・・・・・。」



やられたとアッテンボローが思った時には遅く。



キッチンの広いシンクに体を押しつけられ耳朶をあまがみ

され首筋に柔らかい唇の感触がした。脚を脚で開かされて、

こんどは唇にいつもとは違う激情あふれる接吻けが容赦なく

降り注いできた。

衣服を剥がれて鎖骨や白いたいらかな胸に情事の痕跡が

ないか調べられるように唇を押しつけられる。

赤く、黒い印がリンツによってアッテンボローに刻まれてゆく。

床に落ちた衣服がなまめかしく映る。

まるでほかの男の香りをぬぐうように接吻けされる。

アッテンボローが何かをいおうとすればリンツは唇で唇を

封じ込む。

有無をいわさぬ何かがあった。



・・・・・・長い接吻のあとやっと息ができるようになったアッテ

ンボローだがリンツの抱擁は常になく力強く、力の差を見せ

つけられたおもいがした。



「・・・・・・おい。こんなのお前さんらしくない。俺たちはめられ

たんだ。さっき気がついた。・・・・・・おれの話を聞く気はあるか。

それともこのまま膂力で押さえつけた情交をするのか。」

アッテンボローは若いけれど凛とした犯し得ない部分を持って

いる。

徳というものでもなく最年少提督ならではの覇気があった。



リンツは「力」を誇張され自分を取り戻した。

いくら自分が膂力が勝っていても「肉体的な力」だけで恋人を

抱くのは彼の流儀ではなかった。

「・・・・・・すみません。お伺いします。どういうことですか。

はめられたとは。」

うでの中のアッテンボローを見下ろしてリンツは落ち着きを

取り戻しはじめていた。



「確かにポプランは耳打ちした。あいつ本を貸してくれとさっき

この部屋にきたんだ。専門書で要塞じゃないから手に入りに

くいといって。だから貸してやろうと書斎に入れた。寝室は

さすがにはいらなかったが将官と佐官の部屋の大きさが違う

とかいってはしゃいでた。特に害はないと思ったんだ。本を貸

したら出て行ったし。おれはやつが何をつけているかそういう

ことには疎いから、あいつ、自分の香水の香りを残して俺たち

を謀った(たばかった)んだろうな。」

なぜそんなことをしたんでしょうかねえともう通常のトーンに

なったリンツがアッテンボローの額に自分の額をくっつけて

尋ねた。



「・・・・・・お前を怒らせて二人を喧嘩別れさせたかったから

じゃないかな。おもしろ半分に。」

あいつ、殺してきてもいいですかとキスのあいまに恐ろしい

ことをリンツが言う。

ヤン艦隊では階級が上のものが下のものに暴力をふるう

ことを厳しく禁じているので甘い愛撫に理性のたががはず

れる手前、アッテンボローは即座に却下した。



でも。

「お前って案外嫉妬深いんだな。」

キッチンでアクロバティックに愛し合いながらアッテンボロー

はしがみついた恋人に囁いた。

お前が怒るところなんて、見られないと思っていたのに。

「・・・失望しましたか。」

「・・・失望しながらこういうことするかよ。」

ひんやりとしたシンクが素肌にあたって冷たい。



リンツにしがみついてアッテンボローは小さく笑ってそのたくま

しい首にキスをした。

そこからは。

恋人同士のラブ・アフェア。










あなただから、誰にも渡したくないんですよ。

そんな言葉を耳にしてアッテンボローは安心してリンツに心も

体も任せた・・・・・・。







演習終了後。

要塞に無事帰還したアッテンボローたちであった。

ライナー・ブルームハルト少佐が要塞内で行われたフライング

ボール大会で空戦隊チームと戦うときにポプラン少佐つぶしを

部下に命じて途中退場させる怪我を負わせたのは・・・・・・。



イワン・コーネフ曰く。

「見事な意趣返しだ。」



ポプラン少佐は得点王をユリアンに奪われるし肋骨を三本折るし

徹底的に薔薇の騎士連隊長にしてやられることとなった。

「人の恋路を邪魔するやつは何とやらだ。」要塞防御指揮官は

案外怒ると怖い自分の跡目を継いだ青年のしたたかさに感心した。

第14代連隊長はカスパー・リンツ中佐でよかったのだと。



アッテンボローとリンツはフライングボールなど興味もなくただ

互いにしか興味がない休日を送っていた。




おわっちまえ。汗(完)



 



人様に贈るものではないのですが強引に止まらない14代目も

かけたらよかったんでしょうがそういうことが不得手な私ですので

赦してください。がま。さま。強引に台所でいっちゃえばいいのですが

Pならできるのになあ。香りを残す残さないというのはなんとなく

イメージがあったんですがリンツならかぎ分けるのではないかと。

男殺しですしね。

終わってしまいました。

不発っぽくてすみません。

がま。さまに捧げます。   りょう