あなたが、ほしい。

バレンタインだからとヤンはコーネフさんにチョコレートよりも遙かに彼の好物であるはずの
コーン・ウィスキーやバーボンを贈った。
「私も酒がいいなあ。」
いっておきますけど。
「閣下は大将閣下で俺は少佐なんですからそう値のはるものを期待しないでくださいね。」
淡い金髪の撃墜王殿は苦笑した。給料(サラリー)が破格に違う。
もちろんヤンはそんなことは頓着しない。安かろうが高かろうが酒の違いがよくわかって
いない。何を飲んでもうまいと思ってしまう消費者としての才能が欠如した人間なのである。
コーネフが釘など刺さずともヤンは酒がもらえるならそれだけで嬉しい。
「で、私には何をくれるんだい。君は。」
閣下には枕です。
と散文的な回答がヤンの恋人から速攻でかえってきた。
「枕・・・・・・まくら?」ヤンはコーネフが背中から出した大きな包み紙を見て明らかにそれが
酒ではなく枕であることを認識した。やや・・・・・・失望しながら。
イワン・コーネフは少し落胆気味の年長の恋人を優しいブルーの眸で見つめつつ言う。
「閣下は睡眠事情がよろしくないので少し研究してこれが安眠にいい枕だと思って贈ることに
したんです。寝酒ってのは睡眠を浅くしていくものですからね。ま、俺も寝酒をたしなむことも
ないわけではないですから酒をやめろと言うのではないですよ。」
この枕でゆっくり眠れるといいですねと適度な重さのある「明らかに枕」をコーネフはヤンに
にっこりとほほえんで手渡した。
・・・・・・確かにヤン・ウェンリーは聖バレンタインデーになにも大きな浪漫を抱いてはいない。
地球時代の人類が2月14日に好きなひとに菓子をプレゼントするイベントとして認識している。
それとローマ時代キリスト教司祭だったウァレンティヌスは秘密で兵士を結婚させて処刑されたと
されるらしく処刑の日はユノの祭日でありルペルカリア祭の前日である地球歴西暦2月14日が
選ばれたとか。ウァレンティヌスはルペルカリア祭に捧げる生贄と・・・・・・。
など歴史に思いをはせた。
これでも。
「これでも閣下のことを思って選んだのですがお気に召さないご様子ですね。」
イワン・コーネフはベッドに腰掛けた恋人の隣に座る。
「いや。気に入ったよ。きっとよく眠れるだろう。・・・・・・いやすごくよく眠れるようになりそうだ。
ありがとう。イワン。大事に使うから・・・・・・。」
でもまだ表情がさえない黒髪の恋人にコーネフは尋ねた。
「あまり無理なさらないでください。閣下。自分でも。」
色気のない野暮なプレゼントをしたと思ってますからとすこしだけ乾いたヤンの唇に唇を
重ねた。無味無臭な唇。・・・・・・訂正。わずかに紅茶の香り。
これって・・・・・・・。
黒髪のイゼルローン駐留艦隊司令官閣下は困ったようにおずおずと恋人に尋ねた。
「・・・・・・これで寝ろってことだよね。」
いや、無理しなくていいんですってばとコーネフは優しく訂正する。ヤンは時々弟のように
いとけない仕草を見せる。今も困った顔をしているさまが・・・・・・とても「魔術師ヤン」とは
結びつかない。
いや。
「この枕は気に入ったんだけど・・・・・・その・・・・・・・それって・・・・・・。」
もう腕枕はなしってことなのかなと黒髪の司令官殿は頬を真っ赤に染めて恋人に目線を
あわさないまま呟いた。
ああ。
そのことですかとコーネフは少しだけ笑みをこぼして男にしては小柄なヤンを抱きしめた。
「ここでは俺の腕枕でいいですか。それはご自分の官舎でお使いください。」
腕の中でヤンはああ、よかったと無邪気にいった。あまりに無垢だったので我に戻った様子で
じゃあ、かえって早速これでゆっくり寝てみようとコーネフの腕の中から逃れようとした。
だめです。
今夜はここで眠ってくださいねとコーネフは優しくゆっくりとヤンを押し倒した。
そんなかわいいことを言われると、つい。
あなたがほしくなりますとブルーの澄んだ眸が揺らめいて恋人を優しく見つめた。
優しいキスが降りてきて。
ここでも、恋人たちのバレンタイン。
事実「魔術師ヤン」は誘惑が上手であった。
fin

最近恐ろしく文が短くて本を読まないとだめだーと思うのですが
読書が進みません。
ま、とにもかくにも2009バレンタイン企画やっと終了です。
お疲れ様でした。 りょう拝。
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