愛くるしい







これなんかおもしろくないですかとポプランはアッテンボローに遠い過去人間が

地球(テラ)にすんでいた時代人々に愛された嗜好品とされる「煙草」のはこを

手渡した。

ニコチンが人間や自然に悪影響を及ぼすとして人類はこの煙草という慣習を捨て

去った。麻薬ほど取り締まられることはないけれどこの時代煙草というものは

過去の遺物であり手渡されたアッテンボローはその小さな手の中に入るクラシカルな

小箱をじっと眺めた。



「よくまあこんなものが手に入ったなあ。博物館と資料でしか見たことないや。俺。」

翡翠色の眸が無邪気に輝きポプランを見つめた。

中は煙草じゃないんですよとポプランはアッテンボローの手の中の小箱をくるりと

器用にあけて。



「これね。チョコレートなんです。2月14日。地球時代愛する人にプレゼントをする

そんな夢のある記念日が今日なんですよ。提督。一本どうぞ。」




昔の映画に出てくる俳優のようにポプランはこれまた上手にはこをとんとんと指で

たたいて一本だけ取り出した。



「さすが伊達男は違うよな。」



アッテンボローは珍しいシガーの形をしたチョコレートを指に挟んでみる。ポプランほど

うまくいかないが・・・・・・ふむ。それなりに立体テレビ(ソリビジョン)の役者並みに似非(えせ)

ダンディズムに浸れないこともない。



そんなことをしている提督って。

「ちょっと校則違反をしているティーンエイジみたいでいいですね。愛くるしい。」



・・・・・・。



言葉が乱れているがオリビエ・ポプランには言語の整合性はないのでアッテンボローは

聴かなかったふりをする。自分は27才だし愛くるしいわけがない。

「でもこんなものよく見つけてきたな。誰かよい女性の小粋なプレゼントじゃないのか。」

よくできた菓子だ。

煙草を知らないアッテンボローでも細巻きの紙の中にはふつうなら煙草の葉が入って

いて・・・・・・どっちに火をつけてどっちを口にくわえるのかまではわからぬがその葉が

はいっている部分がチョコレートなのだ。それくらいはわかる。

よくできてるなーと感心する青年提督。



今日はバレンタインですし俺は提督が好きなので。



「それ、あなたにあげますから。提督、愛くるしいです。」

・・・・・・。

「こんな珍しいもの悪いよ。お前さんどうせどこかの美人にもらってきたんだろ。」

根本的かつ大きな問題があるので訂正をしておきますねとアッテンボローの言葉に

ポプランはにっこりほほえんで言う。



「一番愛くるしい提督がいるのにほかのオンナノコ追っかけてる間はありません。

これは今日の日のために見つけて提督にプレゼントしたくて。」



ふつうのチョコレートなんて絶対受け取ってくれないでしょと赤めの金髪をした緑の

きれいな眸のポプランは腕組みをしてふふんと笑う。

確かにふつうのチョコレートをもらってもなあと青年提督はえらそうに言う年少の

撃墜王を見た。



「でもはっきり言っておくけど俺、お前のこと僚友にしか思ってないから。」

「そんなことはよくわかってますよ。」



ポプランはアッテンボローのまっすぐな眸とまっすぐな発言に苦笑して言う。俺はこれでも

空気を読むのがうまいんですからと。



でもね。



「あなたの気持ちが一生こちらに向かなくても片思いでも。あなたが愛くるしくて。」

大人のくせにいつまでも子供っぽい表情を見せるあなたを見ることができたので。

チョコレートもまんざら悪くなかったなと。



一生片思い。



このオリビエ・ポプランが。

あり得ないんだと思うけれど・・・・・・「ずいぶん酔狂なまねをするやつだな。お前。」

アッテンボローはあきれたように言う。

実際にあきれている。



恋って。

「そういうものだと思ってますから。提督の愛がなくても・・・・・・。」

ずっとそばにいていいですかとなつかれてしまった。



・・・・・・。



勝手にしろとアッテンボローはあきれつつも薄い紙をむきながら出てきたチョコレートを

口にくわえた。「ちょっと懐古趣味だよな。」口にくわえたまましゃべるので間抜けな口調に

なったけれど。

「ひょっとはいふぉしゅみらよな。」



やっぱり。



「提督、愛くるしいなあ。偽悪趣味の提督にぴったり。チョコボンボンより似合いますね。」

ポプランは満足そうにアッテンボローを見つめるから。

そう物欲しそうに見るなとさっきポプランがしたようにはこをとんとんと指でたたいてもう

一本シガーのチョコレートを取り出した。



「俺一人で食べてるとなんか一人不良になった気がする。お前、共犯者になれ。」

ぶっきらぼうにポプランに言ってチョコレートを一本もたせた。



・・・・・・。

何もかもが愛くるしく見えるってのは俺も病気だなとポプランは少し笑みを漏らした。



「やっぱり提督、愛くるしいです。めまいがするほど。」

「しるか。」

「そんなつれないところも愛してます。」

「やかましい。・・・・・・。煙草ってどっちに火をつけてもよかったのかな。葉巻みたいな

ものか。」

これは両切りなんでしょうねとポプランは口にくわえて言う。

「ふふうはフィルハーあふいていてほっちをくちにふるんでふよ。」



滑舌のよいポプランでもさすがに変な言葉になっている。

ふつうはフィルターがついていてそっちを口にするんですよと言ったのだろうと青年提督は

判断した。

「ははは。お前、なんか間抜けだな。」

アッテンボローはつい笑顔になる。その笑顔を見てポプランはまた思う。



ああ。なんて愛くるしい。



愛でもなく恋でもない関係だけれど。

この愛くるしい笑顔のためなら一生この人のために生きれるだろうなとハートの撃墜王殿は

シガーチョコレートを口にしてにっこりとほほえんだ。



「あいひてまふよ。へいほふ。」

そんなポプランの言葉をシガーチョコレートをくわえてアッテンボローは馬鹿とはっきり言った。



fin

 







できていないPAのバレンタイン。きっとこのポプランはアッテンボローが大好きなので

ずっと一緒にいられるのが幸せみたいな。

特に裏にする必要もないRなしの二人の関係でした。