手を伸ばせば、そこに。

2月14日。
ダスティ・アッテンボロー少将は要塞事務監殿から三つの小箱を受け取った。
「女房と娘二人からアッテンボローのおにいちゃまへだそうだ。色男。ヤンも相当もらっているようだが
分艦隊司令官殿のほうも今日はチョコレートの山に囲まれていそうだな。お前さんもさぞかしもてる
だろう。」
キャゼルヌ少将に言われてアッテンボローはやや苦笑。「いただくのは嬉しいですけどバレンタインの
お返しはどうも三倍返しというのが定説らしいので頭痛の種です。」
三倍にして。
「三倍にして高いコニャックを俺に返してくれてかまわんぞ。」
そんなレディたちに失礼なことはできませんと青年提督はほほえんだ。
このひとが好きだった。
このひとのそばにいたいと思っていた。
口がとにかく悪いひと。けれど秀才官僚にありがちの堅苦しさなど微塵もなくていつも自分や
ヤンのために喜んで裏方に回る度量の大きさがアッテンボローは好きだった。
今でも好きだと思う。
でも今自分は違う恋をしていると思っているし事実そうだ。
「お前さんの恋人とやらも今日はチョコレートまみれなのかな。あの男に似合う品物じゃないな。」
自分にも似合う代物じゃないなとアッテンボローは思う。「まあ平和的な話しですよね。最前線で
バレンタインってね。」
ともかく来月にはマダム・キャゼルヌと二人のご令嬢には何か気の利いたプレゼントをしますと
話を終えてアッテンボローは仕事をしに自分の執務室に戻った。
勤務時間を終えて部屋に帰った。
恋人のワルター・フォン・シェーンコップはもうアッテンボローの部屋で制服のジャケットを脱ぎ
ネクタイをゆるめて水割りを飲んでいた。「なあ。お前も今日はチョコレートもらってきたか。」
ソファで脚を投げ出して座っている「恋人」の隣に腰を下ろした。
・・・・・・そっと唇を重ねた。
「頂戴はしたが・・・・・・お前さんのような青二才と違ってなんとチョコレートは一つもない。」
4つしか変わらないのにずいぶんと年上ぶるんだなあと軽くにらむと。
「そういう顔に出るところが青いな。」と抱き寄せられた。
こうやって。
この男に身も心もゆだねているとアッテンボローはありのままの自分でいられる気がする。
チョコレートが一つもないってどういうことだと長くて筋肉がきれいについた腕のなかの心地よさを
堪能しながら青二才と呼ばれる青年提督は尋ねた。
どうも。
「どうも俺にはチョコレートだの菓子がよほどに合わぬらしい。イゼルローンの賢明なる女性陣は
軒並み酒を贈ってくれた。確かに菓子よりこちらの方が俺には助かる。」
グラスの中に琥珀色の液体。
過去、現在、未来と通じて男の友となる酒。
「・・・・・・。俺もそっちがよかったなあ。」と子供のようにうらやましがると全部ここに運んでいるから
適当に飲めばいいと「恋人」は言う。そして・・・・・・。
手を伸ばせば、そこに。
くすんだ彩度の低い茶色の眸と、同じ色の髪。
何人もの女性たちがこの髪に触れて・・・・・・この腕に抱かれたことだろうと思うと。
つい、苦笑。
何かおかしいかと聞かれて。
「いや。別に。多くの女性たちからお前を独占した罪って重いのかなと殊勝にも思っただけだ。」
ずいぶん今更なことを言うんだなとシェーンコップは笑みを漏らす。
本当。「本当、今更だよな。」といつも手を伸ばせばそこにいる「恋人」のきれいな額に接吻けを
落とした。
するするとスカーフを抜き取られ唇を重ねながらシェーンコップの骨張った指が・・・・・・男らしいと
いえる指が衣服を剥いでいく。あまりに自然な流れだから接吻けを止めないまま素肌を重ねる。
じらしながらアッテンボローが感じるようにシェーンコップは溶けるような熱い舌を白い肌にはわせた。
「あ・・・・・・・はぁ、んっ、んっ、・・・・・・・っ・・・・・・。」
恥じ入りそうなあえぎ声が漏れていっそうシェーンコップが執拗に攻める。
指と舌と・・・・・・「恋人」の低くて甘い耳元での声。
この声は一種媚薬だなととろけていくような感覚の中でアッテンボローは思う。
大好きなこの声。
いつまでも聴いていたい、愛してるというささやき。
ソファの上で灯りもけさないまま愛し合う。
脚をシェーンコップの肩まであげられてアッテンボローのものも下腹につくほど高まっている
のが見て取れて羞恥に頬を染めた。けれど自分がシェーンコップをほしがっていることはよく
わかっている・・・・・・。
いつか。
この男と離れるときが来るのだろうか。
自分は戦争屋だから大いにあり得ると思う。「トリグラフ」を与えられて分艦隊で指揮を執るとき
先陣を切るのは「トリグラフ」であり、しんがりをつとめるのも自分なのだ。いくら自分は運がよいと
いってもいつ宙(そら)で消える命かわからない。
だから。
手を伸ばせば、そこにシェーンコップがいるこの瞬間。
ありのままの自分でありたいと素直に思う。たぶんこの男のことが本当に好きなのだ。
今日はおとなしいなと言われて。
抗う(あらがう)気持ちなど何もない。髪や頬や唇や首筋や背中に触れられアッテンボローは
安堵する。熱いキスで埋め尽くされる愉悦が心に広がる。
「・・・・・・お前の前では・・・・・・つくろいたくない。お前といるときは背伸びも・・・・・・したくない。
・・・・・・する必要はないよな・・・・・・。」と甘えた戯れ言をまじめに言うアッテンボローにシェーンコップは
やさしくほほえんで見せた。
強い力、けれど限りなく優しく抱きしめられて・・・・・・眸を閉じた。汗でお互いの肌が吸い付き
わずかな隙間もなく離れない。
俺の前では・・・・・・。
「俺の前ではそのままでいいんだ。お前がしたいようにすればいい。」
まぶたに柔らかな唇を感じて広い背中に腕を回す。
ここにいるこの男が、途方もなくいとおしい。
男の唇を自分からむさぼってグレイッシュブラウンの髪に指を入れる。本当に今夜は素直だなと
4才年上の恋人はうっすらとほほえむ。
たぶん、たった一人の、運命のひと。
指がアッテンボローの体を優しく撫でて唇が優しく容赦なくふってくる。
「お前が・・・・・・好き・・・・・・。」
深く入ってくるシェーンコップを受け入れるとよがり声が部屋の中に充満する。
ただのセックスから始まった関係が本当の恋に変わっていく。
苦しみでしかなかった痛みは今は温かさを伴った・・・・・・愛情に感じる。
たぶん、たった一人の、運命のひと。
もっと、もっとと自然と声を出しているアッテンボローにシェーンコップは深い接吻けを交わしながら
腰をゆっくり動かし・・・・・・やがて熱すぎるアッテンボローの中でシェーンコップの腰がだんだん
激しくなってゆく。息が止まりそうなほど唇を重ねながら突き上げられてアッテンボローは思考が
飛んでしまった。シェーンコップの体温の熱さとささやく声。彼のにおいすらアッテンボローを感じさせる。
ただ突き上げられているだけでアッテンボローのものは固くなり透明な体液があふれてくる。
自分の中にシェーンコップがいる・・・・・・この今を忘れたくない・・・・・・。
「・・・・・・ん、あん、もっと、・・・・・あ、はぁん、もっと・・・・・・・きて・・・・・・。」
どんな女性からも得られなかった高揚感と・・・・・・受け入れられているという安堵が甘くシェーンコップの
最後の理性を崩した。
あ・・・・・・ん・・・・・・・とアッテンボローのあえぎシェーンコップをもとめる声が一段と妖しく耳をかすめると
そこを容赦なく突き上げる。淫猥なくちゅくちゅというぬめる体液の音。
アッテンボローもまなじりを朱に染めて涙をためながらしがみつき腰を動かした。
つながっているだろうとシェーンコップの声が引き金となってアッテンボローは達した。
そのすぐあとにきゅうっと締め付けられてシェーンコップもしっとりと肌を汗でにじませ4才年下の恋人の
なかで射精した。
アッテンボローの背中がびくびくとはねて二人は呼吸が荒い中互いの唇を欲してからみついたまま
抱きしめあっていた・・・・・・。
互いの汗と体液にまみれて濡れたまま・・・・・・・アッテンボローはささやく。
お前が好きだと。
手を伸ばせば、そこに。
確かにシェーンコップはいて。いつの間にか深く彼を愛した自分に苦笑。
それでも、幸せを感じた。
のどを潤す水や酒より、今のアッテンボローに必要なのはシェーンコップの心と実体。
「・・・・・・まだ足りない。」
といってみると4才年上の「恋人」はアッテンボローの白くうっすら上気した額に唇をあてて。
バレンタインも悪いものではないなと甘く唇を重ねた。
星と二人の恋に迷い込んだとき。
二人にできる最前のことは、未来じゃなく。
ただ、恋に落ちること・・・・・・。
fin

SAのバレンタイン。
文章が美しくなるようにと考えつつ少しだけR入り。
以前キャゼルヌに恋慕していたけれどどんどん心がシェーンコップに揺れて
恋をした二人のバレンタインと言うことで。
シェーンコップはずっとアッテンのそばにいてほしいと思うので
うちではこの時代が一番多くなります。
この二人はRもいけるけれど純愛路線でも書けるという不思議なカップルだなと思っています。
|