今日は離れてやらない・2(PA+K)
探偵としては・・・・・・。
聞き込み捜査からはじめたいが相手はイゼルローン駐留艦隊分艦隊司令官殿。
回りくどい聞き込みはかえってよくない気もしてコーネフは直接標的と向かい合う
ことに決めた。
小細工は性に合わない。
相手がイワン・コーネフ少佐だとアッテンボローは気安かったようで午後に時間を
とってくれた。
珈琲のおいしい店があるとアッテンボローはそのカフェにコーネフを連れて行った。
この店、知ってますよとコーネフは熱い香りの高い珈琲をウェイトレスがテーブルに
おいたときにアッテンボローに言った。「世間で言う小官の「相棒」とやらが気に入った
人間だけを連れてくる店です・・・・・・。」
カップに口を付けアッテンボローは少し目を細めて笑った。「あいつに何か言われたか。
少佐。」
まさか。「あいつはあれでもわずかに自尊心が残ってますよ。特に色恋沙汰で人の
手を借りるなどやつの矜恃が赦さないでしょうね。」ただの興味本位ですけどとコーネフは
ボーンチャイナのカップをおいた。そして「興味」があるようなないようなそぶりで・・・・・・
アッテンボローに視線をあわせないまま尋ねた。
お前って誘導尋問が下手なようで巧みだなとアッテンボローもコーネフを見ないで
カフェの壁を見つめて言う。あいつにはだまってろよと頬杖をついていつもの快活さが
あせた一人の青年がぽつぽつともらす。
怖くなった。
俺の仕事は時機到来と見れば艦載機のりを死地へと声一つで命令できる立場に
なった。
たった一声。
それだけで現場で戦う人間を危険な目にさらし悪くすれば死なせる可能性もある。
はじめはそんな感傷など邪魔だと思って自分の隅に追いやったつもりだった。
あいつといると。
あいつにそんな命令をしなければならない自分がとてもいやで。
現場で戦っている人間となれ合ってしまうと・・・・・・何か感情を抱いてしまったら自分は
船で指揮をとれない。それも価値があることではない。
頭でわかっていても・・・・・・。
「・・・・・・あれだけなつかれたやつに、俺は命令するときが来るんだって思ったら・・・・・・。」
とてもこれ以上一緒にはいられなかった。
怖くなって。
まじまじとコーネフはアッテンボローを見て言う。「提督って案外よく考えるひとなん
ですね。」まあなと青年提督はカップを見つめて。
しかもあまり楽天家でもないんですねと言われてアッテンボローは苦笑した。
「まあな。」
普段はこれでも物事悪い方向に考えないようにしてはいるけれど実は酒飲まないと
眠れない繊細さも持ってると青年提督は、笑った。
そしてまじめな表情を見せた。
お言葉ですが提督と「探偵イワン・コーネフさん」は口を開いた。
「あいつは行き当たりばったりな生き方をしてますから頼りない男と思われるでしょうが
運がべらぼうにいい男なので多少の出撃とドッグファイトで死ぬような男じゃないですよ。
それに自分が戦場から離れる生き方だってできるけれどあいつはしない・・・・・・ポプラン家は
祖父から続いた職業軍人の家庭でそれなりのプライドを持っているようですよ。」
あいつは命令は便宜上聞いているだけですがなんの縛りもない男ですから。
「死ぬのが怖ければ幼稚園の先生にでもなるでしょう。ピアノも弾けるようだし。」
しれっとコーネフさんは言う。
あなたやヤン司令官は軍にいささかの縛りがあって辞めたくとも辞められない口でしょう
けどあれは違うのですよと。
「・・・・・・。あ、そりゃそうだろうけどな。つまり俺のしたことは取り越し苦労だと言いたい
んだな。コーネフ。」
「ええ。」
やや不服そうに唇をとがらせたアッテンボローを見てコーネフは言い切った。
「あいつが今ここにいる理由は・・・・・・あなたがいるからでしょう。現在ガールハント中
ですが結局小官の推測と長年のデータとを鑑みるに・・・・・・。」
あいつはあなたを忘れられないでしょう。
・・・・・・。
そんなことを言われてもなあと青年提督は頭をかいた。
提督。
「探偵イワン・コーネフが予言者イワン・コーネフに成り代わって申し上げましょう。
今日は第一空戦隊の仕事が「とっておきの恋人を確保」することなので結論を言えば。」
ココアでも用意して官舎で待っててください。
「あの男がきますから。ま、ウィスキーでもいいんですけどね。」
こら。コーネフ。「あいつに今言ったこと言うんじゃないぞ。お前は口が堅そうだから
はなしたけどこれはオフレコだぞ。」冷めてしまった珈琲を口にしてアッテンボローは
わずかに苦いなと思った。
「小官はそこまで慈善家じゃありません。残念なことですが長年やつの傾向と対策を
常から思案しているものの哀しい習い性というのでしょうか。ポプランは今夜絶対あなたを
探しに来ます。ご愁傷さまです。」
だって。
「とっておきの恋人を確保」すること。」
今日のポプランの任務だとしたら。口をへの字に曲げてふてくされた目の前の青年提督の
もとに戻ってくるしかない。
まだポプランはアッテンボローに未練がありありなのだから。
ごちそうさまでしたと素直にコーネフは先に珈琲を飲み、席を立った。
なんだ両思いじゃないかと心の中でおもしろくもなさそうに呟いた。
ガラスのテーブルに水のしずく。
・・・・・・。
こっちだって忘れたこと、ないんだよなとアッテンボローは伝票を握ってその場をあとにした。
2000時。
今夜は少し残業をして軽く夕食をとってアッテンボローは結局自分の官舎にいる。ココアは
あいにくきらしているし飲みたいと思わないので用意していない。ウィスキーは常に寝酒用に
おいているのでまず大丈夫。
といえど。
一度突き放した「友達以上恋人にあと少し」だった男のもとにオリビエ・ポプランほどの男が
のこのこと来るはずはないとアイリッシュコーヒーを自分用に用意していたころ。
チャイムが鳴った。
「こんばんはっ。提督。」
ずいぶんと早いお出ましだなとアッテンボローは来訪者に扉を開けた。
どんどん好きになることがとても怖かったと。
そんなことは絶対言わない。
何度好きといわれても何度愛してるとささやかれても。
どんどん好きになっていくのが怖いなんて死んでも言わない。
・・・・・・。
「もしかして俺のこと、待ってました?」のこのこと現れた撃墜王殿。待つわけないだろと
ドアを閉めた。
決まり悪そうにポプランは言う。「・・・・・・効率が悪いことはやめにしようと思って。恋も
合理的にと思って。」
なんだそれはと自分用にいれたアイリッシュコーヒーを年少の青年に渡した。
いろいろとオンナノコを口説こうと思ったんですけど。
「そのエネルギーをやっぱり大本命に向けるべきかなと。かえれと言われればかえりますし
もうあいたくないと言われても・・・・・・。」
絶対会いに来ますと緑の孔雀石の眸がきらめいた。
「チョコレートはないぞ。」
「俺はチョコレートよりほしいものがありますから気にしないでください。」
二人見つめ合って・・・・・・笑った。
ほしいものくださいねと恋人がねだるので。
「・・・・・・。いちいち言うな。勝手にしろ。」
本当はすごく好きだってこと、絶対に言ってやらない。
そして今日は、絶対離れてやらない。
ポプランのうでの中に抱きしめられてアッテンボローは心の中でそう決めた。
どんなに一緒に未来を生きていくとしても、愛してるって絶対言わないからなと繊細な割に
負けず嫌いの青年提督は心の中で誓いつつ・・・・・・チョコレートの味じゃないアイリッシュ
コーヒーの味の唇を賜った。
「提督がどんなに頑固でも、おれ、愛してますから。」
勝手にしろと言うと勝手にするという。
夜も更けてくるとコーネフはあくびをかみ殺した。
祖国の妹たちから今日届くようにと贈られたチョコレートを一口。
今日も一日一善、おそらく成功しただろうとライトノベルにしおりを挟んでベッドサイドの
ライトをけした。
不器用な恋人たちの「一日天使」の役目を終えてイワン・コーネフ少佐は眠りについた。
fin
ダルさまへ。
2話という長い小説でしかもちゅーで終わるという作品でごめんなさい。
コーネフさん私も大好きです。コーネフさんはいろいろと話を進めてくれる
ひとなのでいい仕事をしてくれます。
PAかといわれれば微妙な作品ですがどうか読んでやってくださいませ・・・。
あとはご自由にさばいてください。もっとRがよかったのかと思うけれどたまには
さわやかなPAということで^^;;;リクエストありがとうございました。
りょう
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