その顔見たさについ






いつにもまして仏頂面をしている青年提督を見つけたのはゆらゆら歩いていた

ハートの撃墜王どの。

「大丈夫ですか。提督。」

つい声をかけてしまう。低気圧なのはみればわかるのだけれどアッテンボローに

惚れている弱みというやつだろうか。ぶっきらぼうな面構えでも口調でもつい、声を

かけて拝みたくなる。



「大丈夫って何がだよ。ポプラン少佐。」

「あなたの足下から低気圧の渦が巻き起こっています。少将閣下とあろうお方が何を

そんなにお怒りですかね。」

・・・・・・。



そんなに。

「おれはからかっておもしろいのかな。喜怒哀楽が激しいのが問題なのか。」

と今度は思案し始めた。



そりゃ。「あなたの表情の豊かさには心がときめきますけどね。小生はからかって

ないですよ。不良中年は知りませんけどね。」



そういうと今度はお冠な青年提督。「男なんて大嫌いだ。貴官もついてくるな。」

アッテンボローはぶつぶつ文句を言いつつ頭をかいてさらに頭上に雷印を出し

大きなストライドで歩いている。



その後ろをポプランが歩いているのでアッテンボローは振り向いて怒鳴った。

「ついてくるなっていっただろうが。貴官はあほうか!」

とうとう雷さまがお怒りになりました。



・・・・・・ついて行くつもりはないんですが。

「そっち空戦隊の訓練室の方向と一緒なんですよ。」

あ。

アッテンボローはしまったと思い、「すまん。」とポプラン少佐に謝った。

「いったいどうしたんですか。不良中年に何かされたんですか。」

肩を並べてポプランはアッテンボローに語りかけた。

・・・・・・。



あろう事か男にキスされたなど、いえない。

けれどもオリビエ・ポプランはさらりと「シェーンコップ准将にキスでもされました?」

とアッテンボローの顔をのぞき込み無邪気な緑の眸で見つめた。

・・・・・・。

図星、ですね。

今度はポプランが頭をかいた。不良中年ならいつかは手を出すと思っていたけれど

こんなに早く。しかもどうしてこうも雑に手を出すかなと心の中で舌打ち。

このひとは。



まだ誰にも恋をしてないんだから。

性急に荒く奪えば手に入るひとじゃなかろうがと恋の見解の違いを改めて考えた。

目の前の青年提督は恋愛にシャープではない。

恋をするのが苦手なひと。

だから自分は・・・・・・この人とゆっくり恋をしていきたいんだけれどとポプランは

アッテンボローをみた。



小生は。

「とりあえずあなたが小生に興味を持つまでプラトニックでいいと思ってますから。」

だからね。

「できれば警戒しないでください。」ポプランはアッテンボローにぽつりと言った。

翡翠色した眸が少し驚いてポプランを見つめた。



なんて。

警戒しますよねとハートの撃墜王殿は小憎らしいほど陽気な笑みを見せた。

プラトニックでも。



「お前さんはおれが好きなわけ?」

「そうですよ。大事にしたいほど好きです。」

だから。

不良中年にされたキスは忘れてくださいと言う。「ほんとは小生がきれいにしてあげたい

ところですがあなたはまだ小生に僚友以上の思いなどもっておられないでしょ。」

アッテンボローは3秒無言で。

うんとはっきり言った。



それじゃまだキスしてもあなたは小生を振り返らない気がします。

だから。

「これで消毒してください。」

とコーンウィスキーを小瓶をアッテンボローに渡した。

一口飲んでいるので間接キスにはなりますけどと撃墜王殿は洒脱なほほえみ。



「やけ酒ならいくらでもつきあいますし、不良中年にそれ以上のことをされそうなら

おれがやつを撃ち殺してもいい。・・・・・・いつでもよんでくださいね。」

必要とあらば。



物騒なことを言うやつだなとアッテンボローはやっと小さな笑顔。

その顔が拝みたくて。

「あなたのその笑顔がみたくて。・・・・・・怒っているあなたもなかなか愛らしいんですけど

あなたの笑顔、極上ですし。」



本当は小生だってあなたを抱きしめたいくらい好きですよ。

「でも恋には順序があるでしょ。その課程も大事にしたいんですよね。」

相手があなただから。

調子のいいやつだなとアッテンボローは苦笑した。甘いことを言ってもおれは

誰にも恋してないし・・・・・・「お前さんの気持ちに答えられるとは思えない。」



まじめな翡翠の眸と

まじめな孔雀石の眸が交差して。



片思いも恋は恋です。

ではとアッテンボローの隣を抜けて空戦隊の訓練室へポプランは歩き出した。

・・・・・・。

くそ。



だからって恋なんかしないからなとアッテンボローは小瓶のウィスキーを一口

含んだ。これで消毒完了。



すっきりした青年提督。



fin

 



純愛ですね。うちのポプランは何故か紳士なんです。