押しても駄目なら引いてみる

こっちだと思ってきたんだがいないなと同盟軍史上最年少提督ダスティ・アッテンボロー少将が
空戦隊の休憩室に珍しく顔を出した。
イワン・コーネフ少佐は自販機で買った飲料水のキャップをあけようと思っていたのだが珍しい客だと
眺めた。
「ヤン先輩とお前さんの仲は知ってる。それはいいんだけどさ。お前のいるところに司令官殿きてるかと
思ったわけ。いつものベンチにもいないからてっきりここだと思ったけど。隠してないよな。コーネフ。」
・・・・・・・「ポケットには残念ですが入らないですね。」
持ち歩きたいのは山々ですがとクラブの撃墜王殿は言う。
「ふむ。ほかをあたろう。きっとストレスたまってるんだろうなあ。アフター・ケアはよろしくな。おれどうしても
司令官とちょいと話があったんだけど。」
アッテンボローは珍しい色をした髪をくしゃくしゃとかく。
「ああ。俺もちょっとサボタージュしよう。ここって俺も休憩していいんだろ。」
「休憩室ですからどうぞ。」とコーネフはレモンをベースにしたスパークリングウォーターを口にした。
それ。
「うまい?」
ずいぶん人懐こい人だとは普段から思っていたけれどテーブルにひじを着いてにっこり微笑む
アッテンボローは・・・・・・ワルター・フォン・シェーンコップ准将やオリビエ・ポプラン少佐が粉をかけて
いるとの評判はわからないでもない。
からかいやすそうだ。
「まずまずです。飲んでみますか?」パイロット仲間でウィスキーを回しのみする習いでコーネフは
意味なく言った。本当に意味はない。
「一口くれ。」
手渡されて青年提督は一口ボトルの水を飲んだ。
「悪くないな。俺も買おう。サンキュ。コーネフ。」とボトルを返して自販機の前でコインをまさぐっている
ご様子。
「見ましたよ。」
陽気さと洒脱の成分を含んだ声。・・・・・・のなかに不機嫌と悋気が入り混じった不協和音な音声。
「・・・・・・何がだよ。少佐。」こちらはまたいっそうに不機嫌な声音で答える分艦隊司令官殿。
「提督、そういうのを世間一般なんていうか知ってます?」
ポプラン少佐はじりじりと壁際に若き青年提督を追いやった。
「知らない。おれはのどが渇いてるんだ。コーネフが飲んでたのは新製品だから飲ませてもら・・・・・・・
ってこらー。コーネフいないじゃないか。」
休憩室をとっとと遁走したコーネフ少佐。
あの騒ぎに付き合うのはいやだものな。多分彼の恋人は自分の部屋で寝ているだろう。
鍵は渡してあるし。
ちょっと様子を見てこようとイワン・コーネフ少佐、退場。
「新製品の味見させろって言ったらくれたんだ。」
「でも間接キスってやつです。」
基本的に・・・・・・「基本的なことを言うからそのできの悪い頭に叩き込め。少佐。」
かわいくないなあと休憩室の壁の隅にアッテンボローを追い込んだポプラン。
「基本的に間接キスとかそういう表現するな。おれは男には友情以外で興味はない。お前やシェーンコップ
みたいに俺をからかって愉しんでいるやつらなどもっと気に食わない。お前たち二人とも女が目標
(ターゲット)なんだろう。俺は立派な男だぞ。ついているものはついているし。からかうのも
いい加減にしろ。」
からかってるんじゃないですってば。
「おれもあの不良色事師もどうもあなたに本気みたいです。」
緑の眸がきらめいて言う。
「コーネフとは間接キスするんですね。あいつだって本命は男じゃないですか。危ういとは
思わなかったんですか。」
「先輩とコーネフはいいんだ。そういう事情もあるだろ。二人の波長が合うんだしいいじゃないか。」
「俺と提督の波長もなかなか合いますよ。」
「合わない。どけよ。のどが渇いたから少し休もうと思ったのに時間がない。公務の邪魔をしたら
軍法会議にかけてやる。」
すきですね。軍法会議。
ポプランはくくっと笑ってすばやく自販機でくだんの飲み物を買った。
「提督。どうぞ。下心なしですから。」
・・・・・・下士官におごらせてしまった。といってここで受け取らないともっと悪い気がするアッテンボロー。
「遠慮せずもらう。ありがとよ。」
「いえいえ。こうでもしてあなたにこっちを向いてもらいたいからからかうだけです。」
アッテンボローを壁から開放して。
逃走経路も作って。
「何度でもあなたの怒ったり笑ったりするかおがみたくて。」
で、間接キスだのとからかうお前は子供かとアッテンボローは笑う。
「あなたがすきなんです。」
「あ。そ。」関心のない様子でアッテンボローはポプランの言葉をかわした。
そう。女にしか興味がなかったはずのオリビエ・ポプラン少佐は現在恋愛中。アッテンボロー提督・・・・・・
無論男性。気の合う上官だっただけが今は彼の姿をみないことには、朝も昼も夜もない。
恋焦がれてしまったものは仕方なくて。
押せ押せでくどいても逃げるのが上手な人だから作戦を変え少し引いてみると。
最近逃げなくなったことがポプランはわかった。
アッテンボローは腕時計を見て「あ。やばい。事務監に出すデータ作らなくちゃ。ヤン先輩もいないし
おれなんだろうな。戻って仕事しよ。」と出口に向かって歩いていく。
おい。これ飲んだことあるか。お前とポプランは聞かれて
「いや。ないっすよ。」と追いかけもせずアッテンボローの姿に見とれていた撃墜王殿。
ペットボトルが曲線を描いてポプランの手の中に落っこちてきた。
「それ微炭酸だから今開けると顔に引っかかるかもな。今度酒でも飲みに行こうぜ。
からかわないなら赦す。」
アッテンボローの極上な笑顔。
「了解です。いつでも夜あけてますから。」
じゃあなとアッテンボローは軽い足取りで休憩室を後にした。
一人残されたポプランはつぶやいた。
「女以上に難しいぜ。」
手にある飲料水。・・・・・・飲んだら間接キスだなと自分でも馬鹿なことを言ったよなと
微笑むハートの撃墜王でありました。
fin

こっちの世界ではヤンさんと第二飛行隊長。アッテンと第一飛行隊長が仲良しのようです。
何のことはない閣下はコーネフの部屋で昼寝です。これは秘密のご様子です。
公認ですが昼寝部屋を提供しているのは秘密。
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