濡れた瞳は君のサイン

腕の中で黒髪の恋人がうとうとしている。
「・・・・・・昼寝できなかったんでしょ。寝たらいいじゃないですか。」コーネフは声をかけた。
「・・・・・・うん。いわれなくても寝るときは寝るよ。子供じゃないからね。いろいろと考えるとうとうとするけど
眠りに入れない。・・・・・・お前こそ寝ていいんだよ。訓練もあるしね。」
ともすればくぐもって聞こえにくい彼の声もイワン・コーネフの耳にはきちんと届くようになっている。
政府はこの人をやたら頼るけれどこの人が人気者になるのを嫌う。
そんなことをアッテンボロー提督が不満らしく昼間ポプランに噛み付いていた。あの二人はどんな関係
なんだ。ポプランは女が好きなんだろうけれどどうもあの提督に心奪われている気がする。
こういうカンを自分ははずさないんだよなとコーネフはヤンの髪に指を入れて優しく撫でる。
風邪を引かせられないからTシャツを着せて寝かせている。上掛けを肩まで引き上げて
「寒くはないですよね。」とだけ声をかけておやすみのキスを額に落とす。自分の身長が185センチで
このひとは9センチ低い。体も筋肉とは程遠いやせたひとだ。そもそも酒を飲む姿は見ても
うまそうに食事をする姿をあまり見ないなとコーネフは眸を閉じたまま思う。それでも自分が作る
食事は残さないで食べるからよしとしよう。
「・・・・・・・ねたかい。」
「寝てないですよ。」
あのね。とヤンは話した。
子供時代、父と一緒に宇宙をわたった時期よくなれないワープや航行でよくはいたんだ・・・・・・。
「だからあんまりモノを口にしないようなくせができた。うまいものは食べるけど余計なものを食べて
嘔吐するのはいやだものね。」
だからなんだって話じゃないんだけれどねとヤンは4つ年下の恋人に呟いた。
「閣下の子供時代、かわいかったんでしょうね。」
・・・・・・過去形なんだな。
好きで30になったわけじゃないけれど。「私は30代だもんね。・・・・・・昔はかわいかったんだよ。
そうだよ。かわいかったのは昔のことさ。ああ。やになるなあ。」
と漆黒の眸でコーネフを見つめた。でもすぐそらす。
・・・・・・。「十分今でもかわいいですよ。いやかわいいというより。」
いとしいです。かなりいとしいです。
「・・・・・・抱いていいですか。それともこのまま寝ますか。」
・・・・・・・誘ったつもりはないんだけど。とヤンは恋人の額に触れた。
「このまま眠れそうもない。・・・・・・できれば・・・・・・・あんまり考えたくないことが多いから。」
お前のことだけ考えたいな。
「・・・・・・了解です。閣下。俺のことだけ考えてください・・・・・・。まだまだなれないでしょ。
痛くしてしまうかもですが俺のことだけ考えてください。愛してますから。」
うんと頷くやや小さな体を抱き締める。そっと。いままでのどの女性との恋よりもそっと。
恋人は魔術師と呼ばれ、奇跡を生み出すと信じられているけれど。
こんな眠れぬ夜を幾夜も過ごしている。あまりにいじらしいので愛情がわく。
必死にしがみついている様子も、いとしいなと思う。汗ばむ肌が吸い付いてくる。
年上の恋人が苦しくないように苦心しながら、抱く。といえどまだまだ情愛になれぬ彼。
これで疲れて眠れればいいのになと心配性気味な・・・・・・もともとコーネフは心配性ではないが
相手がヤンだとやや心配性にもなる。
これは欲情というよりも・・・・・・・このひとと少しでもつながっていたいという気持ち。
・・・・・・それは欲望か。結局はとコーネフは自分の思考にふと笑みをもらした。
「・・・・・・そっちは余裕があるなあ。全然私のこと、考えてないだろう・・・・・・」彼には余裕が
ないらしい。どう苦心してもなかなかきつい。
「いいえ。閣下のことしか考えてないですよ。」きっぱりと情事のさなかでもコーネフは言う。
あなたのことを考えてたら、つい笑みがこぼれました・・・・・・。
やさしく愛のあるくちづけを交わして。
「あとで弁明します。・・・・・・苦しいでしょうけれどあなたのことしか考えてないんです。
信じてくれますか。」
うんと、唇をかみ締めてヤンは頷いた。あんまりきつく噛むと唇に傷がつくからゆびを口に
含ませた。
「痛かったら噛んでいいですからね。閣下の歯くらいで傷になるやわな指じゃないですから。」
「・・・・・・。私は犬じゃないよ。」
「ご自分の唇をあまりに深くかんでおられるから。あなたに傷がつくのは見ていられません。」
とまた唇を重ねた。
・・・・・・深くつながって、思ったのも「この人と、一緒に生きていいたいな。」という気持ち。
イゼルローンの嘘の夜空も、嘘の明けの星も・・・・・・二人で見て生きてゆきたいなと
柔らかな黒髪を撫でながら思う・・・・・・。
ことんと、情事がすむと子供のようにヤンはコーネフの腕の中で眠りこけてしまった。
おそらくはいろいろと思案せねばならないことがありそれは自分では大きく助けにならぬこと。
風邪をひかぬように汗を拭き新しいシャツを着せて4歳年上の恋人を眠りにつかせる。
いつか弁明しよう。
愛を交わして、つかれてあなたが楽に眠れたらいいなと思うと自分は過保護な恋人だなと
つい笑ってしまいました。あなたの濡れた瞳を見ていると妖しい気持ちより、とても大事に
思えて苦しい思いをさせたくないと思っているけれど、なかなか男同士でつながるのは
苦しいものもついてくる。・・・・・・あなたを苦しめたくなどないのですよって。
「過保護だな。俺・・・・・・。」彼のまぶたにやさしいキスをひとつしてコーネフは腕の中に恋人を
抱き締めたまま眠る・・・・・・・。あなたのことしか考えてないですよ。俺は。
まいったなと一人思うやや品行方正な撃墜王殿は考えた。そのうちまどろんだ。
白い朝の中で目を覚ましたとき、まだ朝寝をむさぼるヤンを見て、笑みが漏れた。
この人が好きなんだな。おれは。そう確信した。
fin

閣下のあえぐ姿ってかけないんです。根性が足りないです。だれかびしばし
叱ってください・・・・・・?いや叱らないでください。
こっちの世界ではポプランはアッテン狙いですね。もう一方ではアッテンはコップの恋人です。
これは別世界なんですよ。浮気じゃないです。
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