夢の中ではこんなにも








執務室という部屋の中で、白く浮き上がるからだとそれにからみつく、裸の男。

あん、あん・・・・・・・

もっと声を出していいんだぞと、耳元の声が怪しく響く。体の芯を男の舌がちろりと這う。

「やだ・・・・・・ワルター・・・・・・ずる・・・い・・・・・・。」

ずるくないと数度舌先で舐められて、咥えられる。頭がおかしくなる。

粘着質な音が自分の息の荒さと連動して、すごく淫猥でますます恥ずかしくなる。

ますますとろけるような快感が襲ってくる。

「ちゃんと・・・・・・こいよ・・・・・・・ひとりでいくの、や・・・だ・・・・。」

知らぬ間に腰が上がる。男の舌と手で弱いところをつかれてあえぎ声が嬌声に変わる。

デスクに半裸で転がされよがる。



執務室は防音があり、ほかのものは出ている。一時間は席をはずすという。

もちろん鍵をかけて。制服のジャケットやスカーフなど床に散乱して。

「ちゃんと抱けよ。ワルター・・・・・。じらすな・・・・・・よ。」

ボトムを剥ぎ取られて足を大きく開かされて。やっと男が唇を自分の唇に重ねた。



ぼんやりとした頭で男の舌を受け入れる。茶色とグレーの中間色の綺麗な髪に指を

通し、抱きしめる。ほんの少し唇がはなれたとき、

「愛してる・・・・・・・。」

とおれは言った。グレイッシュブラウンの怜悧だが優しい眸がおれを見つめる。

愛してるよ。ダスティ・アッテンボロー。

男が体に入ったとき何度も愛してると叫んだ・・・・・・。



そのたび切なさより、安堵した・・・・・・。













そんな夢を見た。

欲求不満かおれはとダスティ・アッテンボローは洗面所で顔を洗い、歯を磨く。

夢ではシェーンコップに愛してるっていえるんだけど。



現実ではなかなかいえない。

あのひとが要塞にいなければもう忘れてもいいころあいだったけれど、そうもいかない。

けれどあのひとの家庭を思うと、自分勝手な愛情など押し付けられない。一度として抱かれたことも

キスを交わしたこともない。そういう感情とはまた別に。



純愛とか言っていいのかな。



手が触れることはある。同じものをとろうとしたらそうなったときがある。だからといって

抱かれたいなとは思わない。キスしたいとかっていう気持ちも違う。

けど、あの人の傍らにいて、酒を飲みながら話をして。そんな夜を重ねたい。



「この末っ子め。おれはお前の姉上とは違うぞ。」

「うちの姉たちは先輩より美人ですよ。」

「小憎らしいことしかいわないな。お前が出世してもおれはお前の下で働かない自由を

行使しよう。」

「それは困ります。でも困らないと思います。」

「お前さん、さては出世などしないと思っているだろう。」

「はい。今の士官学校教官の仕事は楽しいですよ。先輩が事務次長を愉しんでいた

気持ち、わかります。かわいいですよね。士官候補生。俺もさぞかしかわいかったでしょう。」

「冗談言うな。お前は一番手がかかったよ。授業のサボタージュはしないし学業は優秀なのに

たまにとんでもないことをしでかした。ヤンのほうがおとなしくてまだ無害だったよ。・・・・・・

学生らしさとか、若さとか、覇気の類はないがな。」



そんなふうにいつまでも生きていけるなんてよくまあ考えてたな。おめでたいよ。おれ。

そんな純愛を胸に秘めていたのに今は「アイジン」を抱えてしまった。

そのうえ「アイジン」に恋しつつある。

不毛だなと身支度を整えた。不毛だけれどこういうのが恋かな。浅くいれた珈琲とバケットを

ほおばり1人の朝食。

昨夜は男が演習でヒトリネ。もとは独身だから1人で寝ることは慣れているし読みたかった

怪奇小説も読めた。新聞に目をおとおして。



さて。出勤しようと家をでた。

夢の中では何度もあいつに愛してるっていえるのに、現実に戻ればそうもいえなくて。

いさかか自分をもてあます。あちらは愛してるといってくれたぶん本当に愛されているのだろうし

迷うことないのだが。



「おい。珍しく1人でご出勤か。色男。」

要塞事務監の声は心臓に少し悪い。

「基本は1人ですよ。ときどき大きなお供がいますが。先輩こそ早いですね。」

「蓋を開ければ・・・・・・ヤンの奴おれにたんまり宿題を残していやがる。あんなに優秀な副官がいれば

できそうなことまでおれにやらせるつもりらしい。こっちは遅くまで仕事はいやなんだ。

娘と夕食をとりたいからな。となると朝が勝負だろ。」

キャゼルヌが幸せそうにいうのでアッテンボローはそれでいいと思う・・・・・・。



「人の男に妻帯者が手を出さないでいただきたいですな。キャゼルヌ少将。」

背後から聞き覚えのある、今では「聞きたい声」がした。

「准将。人ぎきの悪いことを言うな。まるでおれにそっちの気持ちがあるようじゃないか。」

「おありじゃないでしょう。」

「まあな。お前さんのように守備範囲が広くないからな。じゃあアッテンボロー、おれは先行くぞ。

さっさと片付けんといかんものばかりだ。ヤンめ。」

ぶつくさといいながらさってゆくキャゼルヌの背中を見ていた。



あの背中をずっと見ていたんだな。おれ。



「こら。恋人の前で他の男を物欲しげに見るんじゃない。アッテンボロー。」

シェーンコップのやわらかい笑顔に、アッテンボローは少しほっとする。



「鍋にビーフシチューの残りがあるから。演習はどうだった。お疲れさん。」

「まだそらを知らんものもいるのが厄介だな。要塞に新兵ばかり送ってきた上層部をうらむ。」

でも。

「お前が鍛え上げれば陸戦の勇士になるだろ。大いに期待してるんだが。」

「期待してもかまわんぞ。精鋭にたたき上げてみせよう。・・・・・・ぐっすり寝たご様子だな。

随分晴れやかな顔をしている。今夜が愉しみだ。」

うるさいアイジンだなとアッテンボローはいった。



「さておれは帰って寝る。」シェーンコップはいう。

「鍵、持ってるよな。」

当然と男は微笑む。

「今夜の飯を用意しておいてくれ。多分2000時には仕事を終えるけど。飯の準備ができん。」

アッテンボローは時計を見ていう。

「2000時を過ぎたら、迎えに行くからな。ちゃんと終わらせろよ。仕事好きな青二才。」

大きな手が髪に触れただけで、やや赤面。



夢の中ではいえるのに。

まだ当分言葉にできないな。

「わかったから。・・・・・・・まってろ。いってくる。」



本当にまだまだ若い奴だと、シェーンコップは見つめていた。言葉に出さなくても

アッテンボローの気持ちは彼は知っている。





けれどけさ彼が見た夢までは知らない。



fin