その言葉が唯一の繋がり







分艦隊の補給のことで要塞事務監と2人で話をする機会があった。



実は青年提督はそんな機会は望んではいない。

けれど、給料分の働きはしなければならないから、キャゼルヌ少将の執務室に足を運んだ。



「いまさらながらに言うが、うちの艦隊にはあまり金はない。帝国軍の残した物資は今のところ本部が

押さえることになっているからな。近くうちで裁量できるはずだが。分艦隊に出せるミサイルや

燃料もろもろは、先日お前さんの執務室にデータを送っておいただろ。あんなもんだ。」



「拝見しましたよ。あんなもんでしょうね。今の同盟にしては、まずまずじゃないですか。」

ほかに用意するものはあったのかと、キャゼルヌが言うのでアッテンボローは考えた。



「いや、ラオ中佐とも思案して残存物資との照合をしました。キャゼルヌ先輩のだした案件

は完璧です。うちの軍部は最低ですけどね。・・・・・・アムリッツア会戦敗戦で先輩ほど補給

を重要視する人を左遷するところからして、悪辣ですよ。」



アッテンボローはまことそう思っている。



目の前のこの男ほど、用意周到な男もいない。そして理知的な男もいない。

「ま。無事にヤンがこっちに引っ張ってくれたわけだしいいさ。家族全員ささやかながら一緒に暮らせる。

十分だよ。仕事はあいつが何もしないから、こっちにお鉢が回ってくる。ヤンは昔から人を使うのがうまかった。」

「喜んで使われているのは、先輩ですよ。」

「お前が言うな。お前も好くおれをこき使う。・・・・・・後方のことはこっちに任せて、

お前さんはお前さんらしく小さくまとまらない人間であって欲しいな。」



小さくまとまるな、か。

ではせいぜい自由奔放に生きてみましょう。軍部の足かせがつかないうちに。



アッテンボローはそういうと椅子から立ち上がって事務監殿の執務室を辞去しようとすると、



「おい。娘たちがアッテンボローのおにいちゃまにあいたいといってる。たまにはうちに来いよ。」

たまらない。

「たまらないお誘いですけれど、おれも私生活が忙しくて。ご令嬢たちにはいずれ会いに行きます。」

たまらないよ。

キャゼルヌは少し残念そうに言う。

「あの御仁が女性たちと全く絶縁してお前さんと交際をしている。よいことではあるがたまには

昔の仲間の義理にも付き合えよ。仲がいいのは結構だからもう野暮は言うまい。」



「・・・・・・同盟憲章にありましたっけ。男同士の婚姻って。」アッテンボローは言った。

「・・・・・・認めている地区とそうでない地区があるんじゃなかったっけかな。結婚するなら

言えよ。祝儀ははずむ。」キャゼルヌは笑っていった。

たまらないな。

「あいつが結婚するはずないでしょう。では先輩。今度奥方のシチューをご馳走に上がります。

キャゼルヌ家のレディたちによろしく。」

敬礼をしてその場をあとにした。



自虐だな。たまらない・・・・・・。



ヤンは何も知らないからアッテンボローを演習のついでに、夫人と令嬢2人と一緒のキャゼルヌを

迎えに行かせた。夫人は聡いからアッテンボローは感情を殺して、三日間食事をご馳走になった。

女性として立派で妻としても、母としても劣るところがないから、キャゼルヌは幸せなのだろう。

それをよしと思い込むことであこがれや、思慕は封じ込めてきた。

そしてそれは成功している。



ワルター・フォン・シェーンコップ以外その気持ちを知っているものは、いない。








上級生と喧嘩するのはしょっちゅうでその始末をするのは、当時士官学校事務次長だったキャゼルヌ。

医務室で治療をされながら何度も説教をされた日々。

無茶が過ぎる、成績がいいくせに悪いことばかりする、分別が足りない・・・・・・。

「でも、小さくまとまるダスティ・アッテンボローなんぞ面白くないのは認める。」

笑顔が好きだった。

秀才官僚のくせにあきれるほど口が悪いところも好きだった。

何かにつけ庇ってくれる優しさが好きだった。

目で追いかけたあの時代。肩を並べる今。いや、今でも庇ってくれている。

あのひとは、きっといつまでも自分を庇ってくれる。

「かわいい後輩の、ダスティ・アッテンボロー」を。





小さくまとまるなといわれても、私は小者でそれほど才覚もありません。

間違った人事で分艦隊を預かっている人間です。ヤン・ウェンリーほどの知略もなければ

艦隊運動もできないから演習にたびたび出される新米提督です。



もう私をあまり買いかぶらないでください。先輩。

私はまだあなたが好きで、あなたに甘えたくて、あなたを目で追いかけていたいそんな人間です。



アッテンボローは自分の執務室に戻っていつもの通り仕事をして。

2100時にシェーンコップが家に来た。



「飯、食ったのか。」

「食べてない。何かあるか。」というから「シチューを作ったぞ。食うか。」といってやった。

髪をくしゃくしゃと乱され、そのまま引き寄せられてキスをした。あたたかい、体温と鼓動。

「・・・・・・おれ、小さくまとまる小市民でいいんだ。」

-小さくまとまるダスティ・アッテンボローなんぞ面白くない-・・・・・・か。

その言葉で、繋がってるな・・・・・・。ほんのささやかに。



「食事をしたら一緒に風呂に入るか。お前の髪を洗いたい気になった。」

風変わりな気持ちだなとアッテンボローはシェーンコップの言う言葉を、おかしいと思った。

「昔の女の髪を洗った記憶でもよみがえったのか。色事師。」

ちがうな。



「お前、そのメニューを作るときたいてい、あの男のことで思い悩む夜だ。」

・・・・・・。「うそだろ。」

うそじゃない。とシェーンコップは言う。

「まあ、うまいシチューを食って、お前の髪を洗って。それからいろいろと話したいなら話を

聞こう。言いたくなければ黙ってろ。」



たまらないな。

これから先、おれは誰を見ればいいのだろう。この男なんだろうか。この男をいずれ目で追いかける日が

来るだろうか。これから先。まだ突っ立っていたら。

「お前のことはこれでも誰よりも見てる。・・・・・・そういうことだ。別に奇策でもなんでもないぞ。」

と、舌が絡まる熱いキス。

たまらないな・・・・・・。おれは末の子だからひとより甘えたところがあるし、独占欲も強いし。



まだ、傾けないな。もう少し・・・・・・。大人にならないと。

「子供を相手に恋なんてできるのか。お前は。」

そんなアッテンボローにシェーンコップは言った。

「子供によりけりだ。お前の幼さはかわいげがある。悪くないぞ。」



こんなふうにさりげなく近くにこられると、ちょっとだけヤバイ。たまんね。



腹がへった。用意しなければ食うものをお前に変えるといわれて、あわてて青年はキッチンへ

走った。



fin

 



表ではエロなんですが裏では純愛ですよね。照れます。