優しさに応える勇気







あいつの部屋による前に自分の部屋で必要な書類を読んでいるとチャイムが鳴った。

女なら今は歓迎という気持ちじゃないなとドアを開けたら、あいつが珍しく立っている。

「なんだ。お前が来るとは珍しい。」

「ブランデー買って来た。入れてくれないなら帰る。」

せっかちな奴だと苦笑して部屋に招きいれた。あいつは仏頂面で瓶をローテーブルに置くと

ソファに座り込んだ。

「どうした。青二才。酒はありがたく頂戴しよう。」

「仕事してたんだな。悪かった。」アッテンボローは言った。

どうせ書類に目を通せばお前の部屋に行くつもりだったんだし手間が省けたとグラスを用意して。

「・・・・・・たまにはここに来たいときもあるんだ。お前と酒を飲むのは愉快だし。」

琥珀色の液体がのどを通るときの熱さが心地よい。いい酒だな。もう少しだけ仕事をすると

断っておいた。連隊長と防御指揮官とは書類の量が格段に変わる。自分の事務処理がそれほど

ひどいとは思わぬがこれもみやづかえ。手を抜くのも趣味じゃない。



しばらくあいつが無言だと思ったら寝室や書庫を見物していたようだ。

女以上に気まぐれな青二才。自分は気まぐれな「愛人だか恋人」をかえっていとしく思う。

次の手が見えないところにスリルとも違うのだが何か新鮮さを感じる。よい酒を飲みながら

書類に不備がないことを確認して。

書架に並んでいる本を眺めている青二才を抱きしめた。女とはまた違う香りと感触。



「これ全部読んだのか。案外インテリゲンチャなんだな。普段人を制服組と言うがおれよりよほど

ここの出来がよいと見える。」背中から抱きしめた腕の中の青二才が向きを変えておれのこめかみに

指をあてた。そしてそのまま髪に指を滑らせ頭を抱き寄せてくちづけをしてきた。

・・・・・・珍しいな。さらに体を密着させて舌を絡ませてくる。互いの唾液が混ざり合う淫猥な音。

熱を持つ肌。長いキスのあと心拍が上がっている様子の、かわいい青二才。

「・・・・・・お前が優しいから・・・・・・ときどき側にいたくなる・・・・・・。」

頭を胸にうずめて重心を傾けてくる。華奢な体だなとふと笑みをもらす。

「おれの優しさは下心でできている。お前わかってるんだろうな」といえば。



「でも、それでいい。」



男にしては小さなあごをくいと上げて唇を重ねる。抱きしめたままスカーフを解き

シャツをあけて綺麗な鎖骨をなぞった。

「ん・・・・・・。あん・・・・・・。」

あえいで唇を離そうともがいているけれどそれは無視。肌蹴たシャツの中に手を入れてまさぐる。

脚を割り込ませると中心がもうすでに高ぶっていることを知る。

「や・・・・・・だ。ここじゃ・・・・・・。あっちで・・・・・・。」そういいながらこちらの服を脱がせようと手が

さまよっている。時に容赦なく欲しくなるときがある。

それは今日こんなとき。

「だめだ。・・・・・・たまにはこっちも歯止めが利かぬときがある。」そう。もう誘惑されてたまらなく

恋人をむさぼりたくなる。溢れる思いがとめられないときも・・・・・・。

愛と呼ばなくても。

「う・・・く・・・・・・あ、あ・・・・・・ワルター・・・・・・。」声が震えてかすれている。首筋に唇を残したまま

背中を向かせて着衣を剥ぎ取る。あらわな肌がまぶしいほど白い。中心をそっと握ると声にならぬ

吐息を吐いた。指をゆっくり入れてみる。

「・・・・・・・んはあ・・・・・・あ、ん・・・・・・っ。」

痛いのかと聞くとそうじゃないという。さらに指を増やしていく。かなり締め付けてくる。

「はやく・・・・・・・来てくれ・・・・・・・い、いきそう・・・・・なんだ・・・・・・・。」

いってもいいんだぞと耳元でささやけば、一人でいきたくないと苦しそうな呟きが漏れた。

まだ締め付けがきつい中をはいる。腰に手を当て動かす。物音は吐息とあえぐ声と、ときおりの

悲鳴に似た声。体がぶつかる音。あまりの締め付けにこちらももう限界だ。

「ダスティ・・・・・・。限界だ。」

「はあんっ。はっ・・・・・・・いっしょ・・・・に・・・・・・・。」

白濁した体液が溢れて足をつたう中でさえ、キスを交わし続けていた・・・・・・。







「今夜はどうしたんだ。青二才。」

衣服を脱がせランドリーに入れた。何せ随分汚れたから。素肌の恋人を抱き寄せいつもと違う部屋で

いつもと違うベッドで過ごす。

愛せないんだけど・・・・・・・お前が優しいから。たまに一緒にいたくなる。たまにな。

「一言が余計だ。まあ。いいか・・・・・・。こしゃくな青二才。」

「青二才というな。ご老体。」

抱きしめてキスを交わす。










たまに優しさに応えたくなる。そんな勇気が出るときもある。

愛してないけれど。愛せるかな・・・・・・。まだ口には出せないし、出さない。

たまにお前にありがとうの代わりにキスをしたくなる。ブランデーを持ってきたのはただの方便。

ただの口実。強がる自分を受け入れてくれる優しさへの正直な気持ち。



言葉にできないから、触れ合いにくる。ありがとうと愛してるをいえなくて、ごめん。

ワルター。まだ口に出せそうもないから、キスをする・・・・・・。



fin