こんなに近くても
本当は好きになってはいけないひとだった。こっちの一方的な片思い。
少年時代あこがれた人はあこがれてはいけなかった人だった。だからこの思いは
誰も知らない。
笑顔と冗談で隠して。
その人が結婚するときもそして娘2人に囲まれているときも。
おれはただ笑って「気の合う後輩」を演じた。あこがれがそれだけでなくなって恋という感情になっても
おれはただの後輩。そうでなければあの人の近くにいることはできなかったから。こんな気持ちは
誰も知らなくていい。
「でもお前の嗅覚は恐ろしいよな。そういうことまで恋の達人はわかってしまうんだ。」
ベッドの中で枕に顔をうずめてアッテンボローは隣にいる男にいった。
「恋の達人だとかそういう次元でもない。お前はよく演技していると思う。そんなお前をほしいと
思う自分も愚かに思えるが・・・・・・恋というのはえてしてそういうものかもしれない。」
背中を向けたままシェーンコップは呟くように独特の声で言う。
綺麗な女は世の中たくさんいるし忘れられない女もたくさんいる。
だが恋というものはやはり侮れない。理屈でつながるものではない。
いとしく思えば・・・・・・道も見えなくなる。
「・・・・・・お前はさ。おれのことすきだって言うけれどおれがそういうふうに心に残している人がいても
かまわないわけ。」
「不服だといっても思いが断ち切れるわけでもないだろう。一緒に仕事をしていてつらくはないのか
お前を哀れに思う。これは真情だ。偽らざる、な。」
髪を撫でられて少し薄目で広い背中を見る。
「つらくないというのは嘘だがあの人はおれをそんな目で見たことがないわけだし。夫人を持って
子供を持って。よき家庭人だろ。おれは眼中にないよ。だったらこっちは知らぬフリをしていればいい。
できればまだ目を離したくない。・・・・・・悪趣味だなと思う。我ながら。」
どの部分が悪趣味なんだ。とシェーンコップが振り向いてアッテンボローの髪を掬う。
「全部。好きになったのが男で好きになったひとが毒舌家で。・・・・・・一緒にいるとつい
楽しいと思ってしまう自分も全部悪趣味だ。その上。お前のような男と寝てる自分。」
はじめてキスを交わしたときに心の芯が揺れた。
この男なら自分はまだ救いがあるだろうか。愛せるようになれば救いがあるだろうか。
「おれは情欲でお前といるんだぞ。シェーンコップ。恋じゃない。愛でもない。」
わかっていることをことさら言葉に表すところがまだまだ未熟だとシェーンコップは
アッテンボローの体を組み敷く。翡翠の色をした眸が偽悪を装う。
それでもこの男が持つ清廉さをシェーンコップはいとしく思った。情欲以上に
擁護したい気になり。恋をした。
何も今すぐ宗旨変えをしろといわないし思わない。
あまりに近くに悲しい恋があって。あまりに近くに愛した男の円満な家庭があって。
快活さと裏腹に月の裏側のような暗い闇を心に持つアッテンボローを
どうもいとしく思う。
肌を重ねて唇を重ねて。
こんなに近くにいても心までは縛れないから。
時がたつのを待ちながら夜を越えていくつもりでいる。その笑顔が本当の笑顔に変わるとき
隣にいることができれば。それもいいとシェーンコップは体液と汗と吐息が混ざり合う中
思った。
一応コプアテなんです。アッテンボローは他の人が好きなのね。
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